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ティシュー さんの投稿された作品が28件見つかりました。
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十字路とブルースと僕と俺 23
母と姉は、遅い朝食の用意を手伝いに、台所へとむかった。おれと父は、思い出の品漁りにまだ没頭していた。おれは、約四半世紀、誰にも被られていないであろう帽子を、入念に、穴があくほど見ていた。「それ、親父がすごい気に入って被ってやつだ…」そう言った父の顔には、懐旧の念が色濃く見受けられ、それは一種の男の哀愁のようにも感じられた。からだ中からいやが応にもほとばしる、アルコールのにおいも、その哀愁の一部な
ティシュー さん作 [210] -
十字路とブルースと僕と俺 22
ちなみに写真についてだが、半分くらいが冠婚葬祭的な写真だった。ほかの写真はというと、緑が目に鮮やかに飛び込んでくる、大自然を背景に撮られたものだったり、洟を垂らしながら野原を縦横無尽に駈けまわっていたであろう、子供の頃のものだったりと、齢様々、四季折々の写真があった。だが、十字路で出会ったあの男とおぼしき姿は、それらには写っておらず、写真を見るかぎりでは、おじいちゃんがあの男であるという仮説に、
ティシュー さん作 [231] -
十字路とブルースと僕と俺 21
「うん。ぐっすり眠れました。…みんな早いね」「寒いからコタツに入って、お茶でも飲んでて。みんなもさっき起きてきたところだから。今からご飯にするからね」「うん」前日、あれだけ酒を飲んだのに、祖母は、まったくそんな事を感じさせなかった。「あぁそうそう。昨日言ってたアレだけど、ほらっ、今みんなが見てるアレがそうよ。…残念だけど、おじいちゃんが自分で録ったテープとかはないみたいよ」台所に向かっていた歩み
ティシュー さん作 [213] -
十字路とブルースと僕と俺 20
「おじいちゃんのってことよね?」「うん。たとえばテープに録音したりしなかったのかな?」祖母は中空に視線を漂わせ、自分の頭の中に探りをいれていた。「あたしはそういうの覚えてないわねぇ。…でも」と話しを続けた。「あるかどうかはわからないけど、おじいちゃんの遺していった物のなかに、もしかしたらあるかもしれない」と、まだ何かを考えているような顔で言ってくれた。「それって今探せる?」「ちょっと…今じゃなく
ティシュー さん作 [212] -
十字路とブルースと僕と俺 19
頭ん中と腹の中がぐるぐると廻っていた。「ちょっとトイレ」と言ってコタツから這い出た。小便がしたかったわけではなかったが、いざトイレに入るや否や、勢い良くそいつは出た。おれは用も足し、居間から出たことで冷たい空気にも触れ、酔っぱらって足元はふわっふわっしているものの、頭の中は少しばかりスッキリしていた。居間に戻ると、開口一番、姉が「ゲロ?」と言った。「ちげぇーよ」と否定し、スカートのように垂れ下が
ティシュー さん作 [228] -
十字路とブルースと僕と俺 18
母は、真剣かつ絶妙なあいづちを打ちつつ、祖母の話を聞いていた。姉も母ほどではないが、似たような身振り素振りで祖母の話を聞いていた。やっぱり親子だな、と思った。父はこの手の話を何回か聞かされているのか、半ば呆れ顔のような表情でうつらうつらとし始めた。というよりは、もうグロッキー寸前なだけかもしれなかった。「お義父さんの夢?初めて聞くかもその話。ナニナニ?」母は向かい合った祖母に、グイッと近づかんば
ティシュー さん作 [225] -
十字路とブルースと僕と俺 17
「仗之助さんがいま此処に居たら、さぞかし喜ぶだろうねえ」仗之助…。それがおじいちゃんの名前だ。おれが赤ん坊のときに亡くなっている。おれにおじいちゃんとの思い出はまったくない。ただ、一枚だけ一緒に写っている写真がある。満面の笑みで赤ん坊に頬ずりをするおじいちゃん。やられているのは猿のようなさして可愛くもないおれ。その写真と、仗介という名前の名付け親ということが、おれとおじいちゃんの繋がりだった。て
ティシュー さん作 [213] -
十字路とブルースと僕と俺 16
コタツには足が十本入り込んでいた。父、母、祖母、一番上の姉(出戻り)、おれの五人分の足が詰め込まれていた。次の日には二番目の姉夫婦とその子女、父の妹夫婦も合流した。五人とも酒にはどちらかというと弱くない方だった。特に祖母に至っては自他ともに認める大酒飲みで、いくら飲んでも顔色ひとつ変えず、さらにその飲み方ときたら、とても80歳を越える老婆とは思えないものだった。ハイペースで鬼のように酒を飲み干す
ティシュー さん作 [229] -
十字路とブルースと僕と俺 15
田舎の冬は寒い。夏は確かに暑いが、そよそよと吹く風は爽やかで、都会に比べるとアスファルトが少ない分、照り返す熱気も少ない。だからわりかた夏は過ごしやすいが、冬は逆である。まず此処には都会のようなビル群はない。人でごった返すほどの人間もいやしない。それゆえ温暖化する要因は少ない、と思われる。吹きつける風は非情な冷たさで、自然の脅威を感じざる得ないのである。祖母の家はほとんど改築らしい改築もせずに築
ティシュー さん作 [273] -
十字路とブルースと僕と俺 14
おれはその後、ブルースマンになることを夢みた。高校二年の夏、いっこ上の先輩の部屋でうだるような暑さのなか、扇風機の涼しいんだか涼しくないんだかわからない風を浴びながら、たまたまブルースのレコードを聴いたのがきっかけだった。あの夏に聴いたブルースとはまた少し違っていたが、このとき聴いたブルースに懐かしさと衝撃を受け、そっちの道にどっぷりのめり込むことになった。その時かかっていたのは、ロバート・ジョ
ティシュー さん作 [313]