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ティシュー さんの投稿された作品が28件見つかりました。
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十字路とブルースと僕と俺 13
8月14日おれ達はこの日の夕方、おばあちゃんの家をあとにした。この日は朝から雨が降ったりやんだり、どっちつかずの天気が続いていた。おかげ様で、最後の一日をぼんやりと過ごすこととあいなった。あまりにも印象の薄い一日となったせいで覚えていることといえば、帰り際におばあちゃんから貰った新鮮な野菜(ねぎ)が車の中で臭気をいかんなく発揮したことと、昨夜のあの十字路でまた男を見かけたことぐらいだった。帰りの
ティシュー さん作 [286] -
十字路とブルースと僕と俺 12
男は穏やかに喋りはじめた。いつのまにかギターの音もぴたりと止んでいた。「ワシのこと…わかるか」「………」おれは予想外の出来事に声も出せなかった。「びっくりさせてすまなんだ。ワシは怪しい者ではないよ」「………」なんとなく怪しくないのはわかっていた。第六感的な感覚でだが。おれはすっかり竦み上がって茫然と立ち尽くしていた。「ワシはきみに会ったことがあるんだ。随分と前のことだがね。……聞こえているかな?
ティシュー さん作 [240] -
十字路とブルースと僕と俺 11
男の正面へこそ回り込むことはできなかったが、近づくことは可能なようだった。ぐるぐると回っていたとき、距離感が幾らか変化していたことを感じていた。角度は一向に変わらず、ずっと男は背を向けてはいるが、十字路に近づくことができたように、男へも近づくことができるようだった。ぼくは手を伸ばせば男の肩に触れることができるところまで近づいていた。身体を止めどなく動かしている男から荒荒しい息遣いと、身体から立ち
ティシュー さん作 [204] -
十字路とブルースと僕と俺 10
どうするべきか悩むおれに突然のタイムリミットがきてしまった。家の方からおれを呼ぶ大きな声が聞こえてきた。最初に母の声が聞こえ、それに続いて父とやさしいおばあちゃんの声が聞こえてきた。振り返ってみるが誰の姿もまだ見えなかった。捻った首を元に戻してふたたび前方へ眼を向けると、そこには今だに男が椅子に座っていた。変わらぬ調子で凛とした音を出し、喜怒哀楽を全て兼ね備えた素晴らしい声音で唄っていた。ぼくは
ティシュー さん作 [217] -
十字路とブルースと僕と俺 9
ぼくは目がまわって崩れ落ちるように地べたに尻もちをついた。息はあがって身体はもわぁっと火照り出した。「なんで…」、乱れた呼吸を整えながら依然背中を向ける男を呆然と眺めていた。男は相変わらずこちらをちらりとも見ようとはせず、ギターを弾き唄を歌っている。顔を見ようと右側からぐるりとまわり込んではみたものの、男とおれの角度はさっぱり変わることがなく、要するにおれは男の後ろ姿しか見ることができないでいた
ティシュー さん作 [240] -
十字路とブルースと僕と俺 8
十字路の真ん中で外灯の光が降り注ぐ中、男は荒々しく身体を揺さぶっていた。その人物が男であることは一目みてわかった。ぼろぼろのジャケットにぼろぼろのスラックス。被っているハットでさえもやはりぼろぼろだった。ぼろを着ているから男だとおもった訳ではなく、身体のデカさも勿論のことだが、帽子からはみでるはずの毛髪がこれっぽっちもないことが決め手だった。おそらく坊主頭か禿げているかのどちらかだったのだと思う
ティシュー さん作 [218] -
十字路とブルースと僕と俺 7
じゃりじゃりじゃりじゃりじゃりじゃり…ザッザッ、ザッザッ。足下は砂利道からアスファルトの道にかわり、耳に聴こえる音は段々と生々しいものへと変わりつつあった。道を取り囲むように生い茂る樹木が音の通り道をつくっていて、前から押し寄せるようにぼくの耳に入り込み、そして生温い夜風と一緒に通り過ぎていった。少し先には片側一車線ずつの道路と交じ合う十字路があった。今その十字路がはっきりと見える位置まできてい
ティシュー さん作 [238] -
十字路とブルースと僕と俺 6
辺りをぐるーっと見まわした。右手にひろがるのは雑木林。最初に音を聞いたあの林だ。正面には田畑がどぉーんとひろがっている。左手には道幅のさほど広くない悪路がある。その道を300メートルほどじゃりじゃりと歩けば、その先は舗装されたアスファルトにかわって、そこからは人工的な光が道を照らしている。ただ、その道のまわりにも木々はもじゃもじゃと茂っているため、玄関の近くから見る分にはだいぶ遠くのアスファルト
ティシュー さん作 [372] -
十字路とブルースと僕と俺 5
「ちょっと外行ってきていい?」「何しに…」二番目の姉が侮蔑するような表情でこたえた。みんなが口々に何しに行くのとか、もう暗いから危ないからとさまざまなことを言ってきた。もちろん心配してのことだというのは子供のおれでも十分わかっていた。それとみんなのリアクションをみてはっきりしたことがあった。みんなにはこの音は聞こえていない。そのことは昨日の夜にも確認済みではあったし、うっすらわかっていたのだが、
ティシュー さん作 [285] -
十字路とブルースと僕と俺 4
居間のテレビでは、この当時一世を風靡したお笑いコンビが、漫才をしていた。それを見ながら俺たちはげらげらと笑っていた。夕飯を終え、おばあちゃん、父と母、父の妹夫婦、姉ふたりとおれの全員が居間に集まっていた。そのお笑いコンビが大好きだったおれは、尿意をもよおしていたにもかかわらず、漫才が終わるまでずっと我慢していて、終わったと同時にトイレへと突っ走った。縁側の細い廊下の一番奥にトイレはあり、居間から
ティシュー さん作 [280]