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矢口 沙緒さんの投稿された作品が226件見つかりました。

 
  • 魔女の食卓 29

    「お待ちどう様でした」そう言って、川島美千子は皿を二枚持って出てきて、それを二人の前にそれぞれ置いた。その皿の中央には直径も高さも五センチほどの円筒形の物があって、それは三色の三層に分かれていた。一番下の赤は細かく刻んだトマト、中央の白は手で小さくほぐした塩鱈、一番上の黄色い層は、やはり細かく刻まれた黄トマトである。その上に何種類かの生ハーブが乗せられている。その円筒形をぐるりと囲うようにして、
    矢口 沙緒 さん作 [411]
  • 魔女の食卓 28

    そのひとつひとつに対して、丹念な質問を繰り返した。石崎武志の記憶力と観察力、そして食材の知識は川島美千子を感心させた。「これで全部ね。どうもありがとう。すごく参考になったわ。それじゃあ…来週にしようかしら。来週の藤本専務の都合のいい日に、ここに専務を招待してください」「えっ?専務をここへ」「だって、このままじゃ困るでしょ、専務との関係」「そうだなぁ、かなり怒ってたからなぁ」「でしょ。だからその関
    矢口 沙緒 さん作 [366]
  • 魔女の食卓 27

    「オードブルが運ばれてきて、見た目はすごく綺麗で、でもそれは見た目だけだった。口に入れて噛んだとたんに寒気がした。なんの味もしないんだ。香りもまったくない。食べ物とは認識できない何かを、ただ噛んでいるだけだった。ティッシュペーパーを口の中に頬張って噛んでいるような、そんな気さえした。専務を見ると、もうすっかりオードブルを食べ終わっていて、ニコニコしながら、『どうだ、うまいだろう、ここの料理は』な
    矢口 沙緒 さん作 [398]
  • 魔女の食卓 26

    ひどく空腹だった石崎武志は、カレーのような物をサクサクと食べたいと思っていた。そんな彼の思いをすべて承知の上で、彼女はさらに一捻りした物を用意していた。彼はスプーンを手に取ると、ライスとソースをスプーン一杯分だけ混ぜ、それをすくい取って口に運んだ。サフラン独特の香りとバターの風味、それに甘めのブラウン・ソースが絡まって、絶妙のバランスを作り上げている。彼は無我夢中でそれを食べ始めた。さっきのフラ
    矢口 沙緒 さん作 [383]
  • 魔女の食卓 25

    この夜、自分がどんな窮地に追い込まれ、そして彼女の助言がどんな意味を持ってくるのか。この時の彼には、予想すらできなかった。薄暗い静寂に満たされた地下駐車場の中を、石崎武志は歩いていた。自分の足音だけがコツコツと響いた。いくらかワインを口にはしたが、酔うほどは飲まなかった。それに酔えるような状況でもなかった。時計を見た。すでに九時を大きく回っていたが、彼はためらう事なく川島美千子の家に携帯で電話を
    矢口 沙緒 さん作 [392]
  • 魔女の食卓 24

    土、日の休日は昼までには川島美千子の家に行き、昼食を食べ、夕食を食べて、クッキーをもらって帰る。そんな毎日が、この二週間続いていた。石崎武志は知らず知らずのうちに、すべての食事を、そしてすべての食物を彼女に依存していた。川島美千子の作る物しか口にしなくなり、またそれ以外の物は、食べる気さえしなかった。彼にとって川島美千子は、生きるうえで絶対的に必要な存在に成りつつあった。彼女は彼の味覚を支配し、
    矢口 沙緒 さん作 [345]
  • 魔女の食卓 23

    『魚料理』 神々の糧 その手に宿りし 神の御業で すべての者を 導かん すべての者を 滅ぼさん昼食の時間が来る。石崎武志はデスクの一番下の引き出しを開けた。そこには川島美千子が作ってくれた弁当が入っている。彼はそれをデスクの上で広げた。サンドイッチと鳥のカラ揚げ、ウインナーとサラダ。彼は女子社員を呼ぶと、コーヒーを持ってきてくれるように頼んだ。そして、ウインナーを
    矢口 沙緒 さん作 [377]
  • 魔女の食卓 22

    戸倉「じゃなぁに?あんた達の話を総合すると、部長は大西麗子に嘘ついて、川島さんとドライブしてるって事?」朝倉「そういう事になるわね」山口「あらら、そりゃ大変だわ。自分の彼女に嘘ついて、別の女性と密会するとなると、これは半端な事態じゃないわよね」戸倉「でもさぁ、密会の相手が川島さんだよ。すっぽかされたのが大西麗子でしょ。おかしいじゃない。逆なら分かるけど」朝倉「そうなのよ。どうしても理解に苦しむの
    矢口 沙緒 さん作 [366]
  • 魔女の食卓 21

    * 居酒屋でOLの戸倉、朝倉が山口を待っている *戸倉「遅いよ、何してたのよ?」山口「ごめん、ごめん。会社を出る前にトイレに入ったら紙がなくって…そんな事はどうでもいいのよ。それよりも、ビックリするような事があったのよ。さっきね、会社を出てここに向かって歩いてたのよ。そしたらね、なんと石崎部長の車があたしを追い抜いていったのよ」戸倉「別にビックリする事ないじゃない。歩いてるあんたより、車の部長の
    矢口 沙緒 さん作 [344]
  • 魔女の食卓 20

    川島美千子と入れ違いにエレベーターを降りた大西麗子は、すれ違いざまに彼女の事をちょっと横目で見ただけだった。営業部のドアを開けると、すでに半数以上の社員は退社した後らしく、ガランとした印象だった。その一番奥のデスクに石崎武志はいた。立ち上がり、鞄に書類を詰めている。今まさに帰途につく直前という感じだった。「武志さん」大西麗子が近付きながら声をかけると、彼はビックリしたように振り向いた。「ああ、君
    矢口 沙緒 さん作 [376]
 
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