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春歌 さんの投稿された作品が35件見つかりました。
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呼び人 10
「で、何しに来たんだ」冬夜は去ってしまった安らぎの世界を名残惜しく思いながら、仕方なく立ち上がり苛々と頭を掻き回す。伊織の姿を見る限り、いつも出かける時に持ち歩く鞄を肩に下げてきっちりと結わえた髪から、どうやらこれから大学へ行く途中でここへ寄ったらしい。「何って、弟を起こしに来た」「はぁ?…まさかテメェ、またそれだけの為に来たとか言うなよ」「悪いのか?」「おいおい…マジかよ…」怒りを通り越して悲
春歌 さん作 [266] -
呼び人 9
「冬夜ー!起きろー朝だー!!」…うるさい。襖から差し込む朝の光に高倉冬夜は眉を寄せ、その声を遮断するべく頭から布団を被り直す。が、それはすぐに乱暴にめくられた。「お前、一体今を何時だと思っている!」「知らねーよそんなの…何時だっていいだろ。伊織には関係ない……」彼の発言に信じられない、と彼女は整った顔を歪めて彼にのしかかった。「ぐえっ」お腹に全体重を乗せてくるものだから、起きるつもりなど毛頭なか
春歌 さん作 [261] -
呼び人 8
テレビの音声だけが聞こえてきて、逆に意識が集中してしまい欝陶しいことこの上ない。『あなたの妹は今あなたのすぐ横にいる…あなたを守っているのだ』『ほ、本当に…?』『本当だとも。さあ、悔いることはない。あれは事故だった、妹さんもそう言っている』『ああぁ…、まなみ、まなみ…!』『さすがは<呼び人>!妹さんの声が聞こえるのですね!?』『もう自分を責めないでと言っている…』女性のすすり泣きと囃し立てるアナ
春歌 さん作 [269] -
呼び人 7
「じゃ、悪魔の待つ家に帰るわ。しゃーねーからよぉ…はあ」「うん、じゃあまた明日」「おー」教室を出ていくその後ろ姿を最後まで見送り、中村心は思った。いつか彼が広い光の下で自由に出来る日が来れば良いのに、と。『では今日も依頼主の希望を叶えてくださる空様の御登場です!』ババーン!耳障りで派手な演出音と共に画面に現れる険しい表情の爺さん。うさんくせえな。くさすぎる。冬矢は馬鹿らしく思いながらぼーっとテレ
春歌 さん作 [257] -
呼び人 6
「お前、それやめろって何度も言ってんだろがっ」「いいじゃん減るもんでもないんだし」「俺のプライドの問題だよ!」「もー心が狭いんだから」「うるさいわ!」高倉はいつまでも変わらない中村の昔からの態度に、嫌なのに安心している自分に嫌気がさした。拒めないんだよな…。中村は先程伊織にだけは頭が上がらないと言ったが、実のところもう一人だけいた。高倉にとって伊織の次に厄介な存在。そのことに多分本人は気付いてい
春歌 さん作 [242] -
呼び人 5
「ったく…写メまで撮られちまったし…あぁーっこれでしばらくはあれをネタに脅されるんだ!マジやってらんねーっ」頭を抱えて唸る高倉にクラスの女子がきゃあきゃあ騒いでいる。中村は高倉の落ち込み様にクスクス笑った。「高倉って喧嘩強いのにイオリンにだけは頭上がんないよねー」「お前はあいつの恐ろしさをわかってないからそんなことが言えるんだ……」「いやぁ、高倉のお姉さんだって時点で強いことはわかってるから」ち
春歌 さん作 [263] -
呼び人 3
「よし。今日の腹いせに私の友達全員にこれ送ってやる」「わーっ、待て、待ってください俺が悪かったですごめんなさいー!!」「初めからそう言えバカ矢」「ば…それ俺のこと?もしかして俺のことなのか!?」「そうだ。今日からお前は『冬矢』改め『バカ矢』だ」「なっ!やだよそんな!」「問答無用」「………騒がし」1ー3の前を通った滝部俊太は苛々しながら息を吐き出し、足早にその場を通り過ぎた。噂を信じて来てみたが、
春歌 さん作 [254] -
呼び人 3
「もー、そこらへんにしときなよ〜。高倉ぁ、イオリンが来てるよ?」「うるさいっ。お前にメイド服を着せられた俺の気持ちが……げっ、伊織、来たのかよ」「うん。なんか怒ってたけど」「怒ってたぁ?え、やだよ。じゃあぜってー外出ねぇし」「そんなこと言ってないで早く行きなよ。じゃないとそのうちイオリン来ちゃ……」「遅いぞ中村ー!入るからな」「ってホラ、来ちゃったし」勢い良くドアを開けて入って来た伊織に高倉はぎ
春歌 さん作 [287] -
呼び人 2
汚い怒鳴り声は耳に悪いとでも言う様に伊織が両手で耳を塞ぐ傍ら、ドアを開けた本人が伊織に声をかけた。「イオリン!うわーごめんねなんか、修羅場見せちゃって」「…ん?ああ、中村かお前」「うん。お久しぶり〜」ヘラッと気の抜けた顔で中村は答えたが、伊織が聞き取りづらそうに曖昧な返事をしたので伊織を教室とは少し離れた廊下に連れ出した。中村が部屋で彼女を見た時は怒っているように見えたが気のせいだろう、と思った
春歌 さん作 [277] -
呼び人 1
あんなこと、もしも最後の言葉だってわかってたら言わなかったのに。……絶対、言わなかったのに。あぁ、またくだらないこと考えちまった。ほんとにくだらねぇ…。いくら悔やんだって、仕方ないのに。滝部俊太はワックスで固めた金髪を乱暴に掻き撫で、己の淀んだ感情を無視した。無視していると、思い込んだ。『1ー3 メイド喫茶へようこそ』。でかでかと教室の前に掲げられた看板に、彼女は無言で眉を寄せる。「なんだこれは
春歌 さん作 [320]