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岬 登夜 さんの投稿された作品が54件見つかりました。
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夜に咲く華〜その10〜
「紅ちゃん…」あやめは階段に立ち尽くす。人形の様におとなしくなった紅を連二郎はしばらく黙って見ていた。「吉原では綺麗ってだけでは客は着かない。お前、何か出来るのか?」紅は黙っていた。「いつも、旦那をどう喜ばしていたんだよ。俺にもやってみせろよ。ほらっ」連二郎は無理矢理紅の着物の胸元を広げた。「そんなもの知らないわ。あいつに抱かれたのは襲われたあの日だけ。それだけ」無表情に紅は答える。「ふーん」連
岬 登夜 さん作 [412] -
夜に咲く華〜その9〜
「とにかく健吾はいないのだから帰ってちょうだい。もうじき店を開ける時間だから」連二郎は笑った。「ところがそうもいかなくてね」懐から沢山の紙の束をだす。「お宅の逃げた旦那の借用書だ。全部払ってくれれば帰るよ」紅は借用書を見る。「こんなに…? だけと私には払う義務は無いわ。さっさと健吾を探して好きにすればいい。さあ、早く出ていって」「そうもいかなくてね」連二郎は一枚の紙をだす。「この、建物、土地の抵
岬 登夜 さん作 [368] -
夜に咲く華〜その8〜
紅と健吾の婚礼から四年が過ぎた。祖父母は店の全てを紅達夫婦に譲り、知り合いの田舎で隠居生活を始め、あやめの年期明けも間もなく、「紅華楼」にとって変化の年となる春。紅は二十歳になり評判の美人女将として店を切り盛りしていた。健吾との仲は結婚当初から上手く行かず、あの屈辱の日から一度もその身体を健吾に触れさせる事はなかった。「紅華楼」に全てを注ぎ健吾の事はないがしろにした。健吾は家を勘当同然に出され、
岬 登夜 さん作 [347] -
夜に咲く華〜その7〜
「なんて事だ…」可愛い孫が暴漢されたと知った清松はその場に座り込む。「心配するな。私がそいつに責任を取らせる」そういい泥酔状態の健吾を引きずりどこかに消えていった。「妙、泣いてないで湯を沸かしな。紅を風呂に入れないと」客を取り終えたあやめが泣いている妙に激を与える。「は…はい」妙はノロノロと立ち上がり風呂場に向かった。「紅ちゃん。立てるかい? 行くよ」あやめに支えられる様に紅は歩く。「ねぇ、あや
岬 登夜 さん作 [269] -
夜に咲く華〜その6〜
鶴の顔が歪む。「今頃、何の用です?金持ちの道楽に付き合ってる暇なんかないんですよ。私達親子を路頭に迷わしておいて探してた?よく言えますねぇ。それとも私が女郎してると思って買いに来たんですか?そりゃあ残念でしたねぇ。代わりの女は沢山いるからお好きなのをどうぞ」刺のある言い方をして紅を突き飛ばしさっさと店の外に消えていった。健吾はその場に膝を付いてうなだれた。「あれは誰だ。私の知っているつうで無い。
岬 登夜 さん作 [440] -
夜に咲く華〜その5〜
そこで健吾の口が戸惑った。はぁんと顔をしてあやめが口を挟む。「男と女になったんだね?」あやめの言葉に顔を赤らめ健吾は続けた。その頃はつうも女中で僕の部屋付きにしてもらって…。僕はつうと結婚しても良いと思ってた。なのに…私の両親に二人の事が知られてしまって。母親とつうはすぐに追い出されて行方が判らなくなって。探しているうち吉原にいったと聞いてね。「紅華楼」のご主人はうちの爺さんと友達で頼って置いて
岬 登夜 さん作 [318] -
夜に咲く華〜その4〜
一緒に誘ってみよう。紅はあやめを茶屋に置き後を追った。吉原は遊女が足抜け出来ないよう入り組んで造られている。知らない人間は迷ってしまう。特にこの先は危険だ。知らない人間がいったら…。健吾の背中が見えた。「ねぇ。ちょっと」突然紅の姿を見て健吾は少し驚きの顔をし、紅だと判ると笑った。「よかった。迷ってしまって。だんだんと感じも変わってきてどうしようかと」確かにその先はきらびやかな吉原は陰もなくあばら
岬 登夜 さん作 [317] -
夜に咲く華〜その3〜
店の前を金魚売りの声が通り過ぎる。昼間は吉原から出られない遊女達目当ての行商人で賑やかだ。「紅華楼」の入口でも馴染みの行商人が遊女達を相手に反物や簪を広げている。紅はその光景を階段の端に腰掛けぼんやりと見ていた。あの健吾という青年事が紅は気になっていた。吉原に来て十日以上立つのに離れから余りでてこない。食事も向こうで一人で済まし、店の者と口を聞かず仲見世(遊女が客引きする場所)が始まる頃ふらりと
岬 登夜 さん作 [352] -
夜に咲く華〜その2〜
紅は渋々帳場に向かった。呼ばれた事に心辺りがある。もう時期16になる紅は吉原で噂になるほどの器量と祖父譲りの人情、祖母から鍛えられた商才で最近絶えず縁談の話ばかり。呼ばれた事に察しはついた。しかし紅は来る縁談を全て断った。大抵の相手と言うのが紅より一回り上の他の遊郭の次男か三男。もしくは女を物の様に売り買いするのを生業とするぜげんあがりだからだ。紅はこの「紅華楼」が好きだ。祖父の清松は温和で人情
岬 登夜 さん作 [408] -
夜に咲く華〜その1〜
紅(べに)は吉原生まれの吉原育ち。廓(くるわ)の若旦那だった紅の父親が売られて来た紅の母親を見初め、すぐに紅を身篭ったため紅の母親は遊女にならず廓の若女将の座についた。元々武家の出の紅の母親は身体が弱く、紅を産んで暫く後この世を去る。残された紅は父親と厳しい祖父母の元育っていった。紅が12になったとき父親の再婚話が出て父親は鶴と言う一回りも歳の違う若い後妻をもらう。若い鶴は何かと紅に焼きもちを焼
岬 登夜 さん作 [535]