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あこ さんの投稿された作品が35件見つかりました。

 
  • サンタの手袋

    「ねえ、私の願い事聞いてくれる?」頭上から突然聞こえた声に、全身の毛が逆立った。緊張が走る。息を潜め、身を低くする。大丈夫、この暗闇で顔までわかるはずはない。黒いウィンドブレーカーのフードを被り直し、僕は決意を決めて振り返った。土手を抜ければ、すぐ国道にでる。国道まで行けば車が停めてある。深夜2時55分。いい時間だ。これ以上早くても、遅くてもいけない。まともな人間は散歩なんかしたりしない時間。居
    あこ さん作 [247]
  • がくさい 第一場〜遠藤ユミコの話〜

    「失礼しまーす。」私はわざと大きな音をたてて職員室のドアを開ける。いたって不真面目な生徒らしく。先生の前に仁王立ちになる。「小説、返して下さい。」簡潔に、要点のみを述べるように気をつける。「おう、遠藤か。」先生はいつもと変わらぬトーンで答える。「お前元々、英語出来るのに今年成績下がったよな。」当たり前だ。わざと間違った答え書いてるんだから。「受験生だってのに…。でも模試の点は良いんだよなぁ。」い
    あこ さん作 [165]
  • がくさ、い 第六場〜後藤くんの話〜

    教室に戻ると、机や椅子は後ろに下げられ、いつでも練習できる状態になっていた。僕は演劇部だという理由だけで、演出をすることになってしまった。要は押し付けられたのだ。学級委員と一緒で。やりたくないことは全部僕に回ってくる。それでもいい。それで丸く収まるのなら。我慢するのや、諦めるのは得意だ。最初から何も望まなきゃ良いんだ。期待しなけりゃ失うことだってない。「後藤おせぇよ〜」松田くんが言う。クラスのお
    あこ さん作 [170]
  • がくさ、い 第五場〜後藤くんの話〜

    授業が終わると、遠藤さんは「ありがとう。」とにっこり笑って、机を離した。たった60分の授業が、僕には二時間にも、永遠にも感じた。机が離れ、僕はやっと緊張の糸がとけた。無意識の内に肩は張り、身体を左の窓にくっつけていたようだ。「はぁ〜………」僕は誰にも聞こえないぐらい小さくため息をついた。遠藤さんはそんな僕の様子にはお構いなしで、短い休み時間を存分に楽しんでた。彼女の周りは人で溢れている。いつも。
    あこ さん作 [152]
  • がくさ、い 第四場 〜後藤くんの話〜

    僕は彼女の言う通りに教科書を差し出す。すると遠藤さんは笑った「それじゃあ後藤くんが見えないでしょ。」そう言って、机を近付けて来た。ぴったりとくっついた机の真ん中に教科書を置く。遠藤さんが覗き込む度に肩が触れ合う。僕は肩が熱くなるのを感じた。同時に、胸も熱くなった。「教科書ぐらい持って来いよ。」先生が呆れた顔で言った。でもそんなに怒ってるようには見えなかった。遠藤さんは軽く舌を出した。失敗をごまか
    あこ さん作 [184]
  • がくさ、い 第三場〜後藤くんの話〜

    子犬のように走る瀬戸さんの後ろ姿を見てると、僕まで優しい気持ちになった。瀬戸さんはきっと先生のことが好きなんだろう。実緒が前に言ってたことを思い出した。英語劇やりたい、と言ったのも、先生とより長く一緒の時間を過ごしたかっただけなのかもしれない。遠藤さんは何故か少し悲しい目で、瀬戸さんの背中を見てた。僕は違和感を感じたけど、ただ眠かっただけなのかも、とも思った。先生は昨日の放課後、学祭の練習が出来
    あこ さん作 [166]
  • がくさ、い 第二場〜後藤くんの話〜

    僕はいつものように教室のドアを静かに開け、出来る限り音を立てないように椅子をひいて座る。静かに、静かに、存在を消すように。「おはよ。」隣から声をかけられる。身体に緊張が走る。「おはよう。」声が震えないように、慎重に言った。前髪の隙間から隣を見ると、遠藤ユミコはくったくのない笑顔を向けていた。前髪ごと後ろに束ね、形の良いおでこが見える。長い睫毛は自然に上を向き、丸く黒目がちな目は孤を描き、三日月型
    あこ さん作 [165]
  • がくさ、い 第一場〜後藤くんの話〜

    僕は自分のことが嫌いだ。顔も頭も良くないし、優しくも、ましてやいい人でもない。偽善者。僕にぴったりの言葉だ。昔から自分が嫌いだった訳じゃない。自信に満ち溢れていた時もあった。友達だって少なからずいたし、好きになってくれる女の子だっていた。でも全て消えてしまった。人間はいとも簡単に人を裏切るということと、どこまでも残酷になれるということ、そして、一度失ったらもう二度と同じところにはいけないというこ
    あこ さん作 [187]
  • が、くさい第十場

    病室に戻った私は、ベッドに横たわる川上さんをぼんやり見ながら、先生の匂いを思い出していた。決していい匂いではないけど、煙草と香水と汗とか、先生を形成してるものが混ざり合った匂いだと思うと、とても愛おしく感じる。私はふわふわと浮遊していた。私の身体に、鼻孔に、あの人の匂いが染み付いて消えないように。麻薬。きっと私にとってあの人は麻薬なんだろう。私の身体も心も蝕んで、ボロボロになったとしても、それで
    あこ さん作 [174]
  • が、くさい 第九場

    「それ、飲まないの。」蓋も開けずに握りしめていたペットボトルを顎で指し、聞いた。「暖かいから…。」「寒いの?」「はい、少し。」「これ、かけとけ。」そう言うと先生は上着を脱いで渡してくれた。「…ありがとうございます。」私は渡された上着を膝にかけた。暖かい。ほのかに、煙草の匂いがした。これが、先生の匂い。私は膝にかけた上着を胸のところまで引き上げ、両手で抱きしめる。「そんなに寒いか。」先生は私のその
    あこ さん作 [200]
 
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