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どろぼう猫さんの投稿された作品が15件見つかりました。
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逃亡記14
ゲルダは出された料理をすごい勢いで食べ始めた。これまで一週間、背嚢のなかの干し肉と乾パンで過ごしてきた彼にとってこのごちそうは天の恵みとも思えた。至福の内に鶏肉の最後のひとかけを残りのパンと共に飲み込むと、しばらくゲルダは放心状態になった。老いた主婦が、そんなゲルダに優しく、風呂の用意が出来ていると告げた。
どろぼう猫さん作 [684] -
逃亡記13
ゲルダはとっさに嘘をついた。「森の中でこれを拾った。ちいさな泉の底できらきら光っていたんだ」「ほうほう。お前さん、それは拾い物じゃった。もう一度、見せてくれんかの?」老人がそう言って手を差し出すので、ゲルダはその手に女からもらった銀貨を一枚載せた。「それはあんたにあげる。約束だからな」ゲルダがそう言うと、老人は喜色満面で受け取った。主婦が料理を運んできた。香草とスパイスと焼けた鶏肉の匂いが立ち込め
どろぼう猫さん作 [683] -
逃亡記12
「なんでもいい。ひどく腹が減っている。めしを食わせてくれ。」ゲルダは主婦の顔もよく見ずに、ぼそぼそとしゃべった。主婦は、「まあ、まあ」と呆れて言葉もない様子。彼をこの家に案内した老人が、ランプの下の椅子をゲルダに勧め、栓をひねってランプに明かりを灯した。ゲルダが椅子に座ると、老人は飾り棚のそばのもう一脚の椅子に自分も腰掛け、先ほどよりは打ち解けた様子でゲルダに話しかけてきた。「さっきのおまえさんの
どろぼう猫さん作 [666] -
逃亡記11
ゲルダが案内されたのは、こじんまりとした村人の家だった。老人に続いてゲルダが家に入ると、夕食のしたくをしていた主婦が驚いて振り返った。「あんた、お客さんかい?まあまあ、このうちにお客を迎えるなんて何年ぶりだろう。見ての通りの小さな村でね、全員が顔見知りみたいなもんだから、わざわざ客に呼ばれたりすることもないのさ」年取った主婦は、まくしたてるようにそう言って、ゲルダに向かって微笑んだ。
どろぼう猫さん作 [676] -
逃亡記10
ゲルダは村に入った。粗末なレンガ造りの家がまばらに立ち並ぶ集落で、家からは、夕げの匂いが漂ってくる。さっそく現れた老人が、ゲルダのことをじっと見上げた。ゲルダは言った。「腹がとても空いているんだ。なにか食うものはないか?」「食うものじゃと?お前さんの右足でも焼いて食らうかの」そう言って老人はけたたましく笑う。ゲルダは苛立ちをこらえ、腰の袋からさっきの銀貨を一枚取り出した。「これで頼む」老人の顔色が
どろぼう猫さん作 [686] -
逃亡記9
ゲルダの声は暗かった。「おれは罪を犯し、かの王国から追っ手を差し向けられたにんげんだ。おれに安住の地などはない。聞くが、この森の向こうに渓谷はあるか?」女はうなづいた。「その渓谷の近くに村があるんだろう?」女はまたうなづいた。そして懐から三枚の銀貨を取り出して、ゲルダに渡しこう言った。「渓谷の村でその銀貨を見せなさい。あなたに一晩の宿と湯気を立てるシチューを振る舞ってくれるわ」ゲルダは戸惑っていた
どろぼう猫さん作 [718] -
逃亡記8
ゲルダは清水を手で受け、その水で顔を洗った。汗とぬめりを腰に結わい付けたぼろ布でぬぐい、さっぱりした気分になる。森中の鳥たちが一斉に羽ばたき宙に舞ったように思えた。いまや巨岩が音叉のように振動を発していた。それにつれて、ゲルダが背嚢におさめた、先程の青い宝石から、しずかな歌声のような物音が、聞こえてきた。いつのまにか目の前に、髪の長い女が立っていた。女の髪は青い。見覚えのあるその女とどこで出会って
どろぼう猫さん作 [708] -
逃亡記7
ゲルダは森の奥を目指した。森の中央部を抜け、さらに向こうに達すれば、大きな渓谷に出る。暗い森は、王国の追っ手からゲルダをかばう覆いでもある。森を抜ければ、ラーミアンからはゲルダがどこに消えたのか簡単には分からぬはずだ。そう確信して、ゲルダは森の植物をかき分け、ごつごつと膨らんだ木の根を避けて進んだ。やがて森の心臓部に出た。十メートルはありそうな巨岩が祀られ、その横をちろちろと清水が一筋滴り落ちてい
どろぼう猫さん作 [551] -
逃亡記6
逃げなければ。ゲルダは自らが奪った背嚢の中の至宝に思いを馳せた。見る者の魂をうばう王国の秘宝、どこか安全な地に逃れてこれをためつすがめつして暮らすことができれば!切なる願いがゲルダの体を再び駆り立てた。彼は立ち上がり、廟の戸を開けた。まだ暗かったが、外は微かに朝の予感をはらんでいた。気配を感じてふと振り返ると、童子の像がすぐ背後まで忍び寄っていた。その手には、先程までは持っていなかった短刀が握られ
どろぼう猫さん作 [544] -
逃亡記4
やがて歌い終わった髪の長い美女はゲルダの方を見て、こう言った。「あなたにはお礼を言わねばなりません。あなたは私をあの童子から解放してくれましたから。あの童子はああ見えて、600年も生きた恐ろしい化け物なのです。石像の振りをして油断させては、あやまって森に入ってきた旅人を殺してその肉を喰らうのを何よりも楽しみとしてきた奴なの。あなたも早く逃げないと危ないわ。さあ早く、目を覚まして!」そのとたん、ぱち
どろぼう猫さん作 [562]
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