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廻 さんの投稿された作品が25件見つかりました。
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海の見える車窓10
明くる日、嘉代はお使いを頼まれ、バスでスーパーまで行くことになった。バスは行き帰りで一本ずつしか出ておらず、これを逃すと徒歩で帰る羽目になってしまうという恐ろしい町だった。バスは一時間近くを要してスーパーのある隣町まで走るので睡眠にはもってこいだった。だが、若いバスの運転手さんは一人だけの乗客の嘉代にいろいろ話しかけてきた。「都会から来たんだ〜、べっぴんさんだね〜」顔のわりに話すのは随分年寄りじ
廻 さん作 [171] -
海の見える車窓9
全身が熱い。頭が痺れている。悲しくもないのに涙が止まらない。息がうまくできない。「っはぁ…げほっ、はぁ、はぁ、はぁ…はぁ…はぁ………」ベッドにうつ伏せたまま、幸一がドアの外から謝るのを聞いた。「嘉代ちゃん、ごめんな。驚かせちまって…でも俺本気なんだ。小学生の頃から…」わたしだって……だけど幸一が引っ越すって言うから、諦めて、いろんな人好きになろうとしたけど、ダメで…それなのに、いまさら………。「
廻 さん作 [161] -
海の見える車窓8
何より嬉しかったのは幸一家族が実の娘のように自分に接してくれることだった。幸せの感覚を、母が亡くなったどん底のあの日から少しずつ思い出してきていた。「嘉代ちゃんさ、来たときより顔が明るくなってる」ある夜、幸一の部屋で海を眺めていたとき嘉代は言われた。「そう?嬉しい」笑いかけると幸一は俯いた。「どうしたの?」「嘉代ちゃんさ……色っぽくなったよな」急に言われ真っ赤になった顔を見られまいと嘉代は海を眺
廻 さん作 [145] -
海の見える車窓7
父親へ手紙を書くと、幸一くんの家族にくれぐれも迷惑をかけないようにとだけ注意書きされた簡単な返事が仕送りとともに送られてきた。嘉代は幸一の隣の空き部屋をもらっていた。この部屋に関しても意外な事実、そして、悲しい事件があった。幸一には妹がいたはずだった。小学校の高学年あたりから見かけなくなったが、どうしたのかと幸一に尋ねると生まれつきの病気により亡くなったということだった。中学生になったらこの部屋
廻 さん作 [158] -
海の見える車窓6
「嘉代ちゃん、私たちはここで一緒に暮らして欲しい。バカ息子と一緒に住むのは大変だろうけど、女の子がひとりで住むのはやっぱり危ないよ」この返答に関しては反応しようがなかった。事実だ。「でも、ダメです」「実代ちゃんとは中学からの親友だったんだよ、それに嘉代ちゃんも放っておけない。実代ちゃんを見てるみたいだしね…」嘉代ははっとした。美早紀も実代が、母が亡くなってショックを受けているんだ。私が一緒に居る
廻 さん作 [164] -
海の見える車窓5
日が暮れ始め、幸一の部屋の窓には西日が鮮やかに差し込み始めた。その眩しさで嘉代は目を覚ました。「寝ちゃった…!ごめんなさい!こーちゃ」目の前には幸一と見覚えある女性が立っていた。幸一の母親だ。「美早紀さん!」小学校の頃、嘉代は幸一のお母さんを名前で呼んでいた。とても美人で優しく、嘉代の憧れの人だった。「嘉代ちゃんお人形さんみたいになっちゃって」うっとりしたように美早紀は嘉代を見つめた。「中身は変
廻 さん作 [160] -
海の見える車窓4
着いたのは先ほど汽車から見た漁村が道路を挟んで向こう側に見える一軒家だった。二階からの眺めはさぞかし良いものだろうと想像できた。目の前にはただただ海が広がるばかりだ。「まぁ入ってよ、眺めは最高だからさ」一階はいろいろ部屋の入り口があったが幸一に案内されるがまま嘉代は階段を登った。部屋のドアを開けると奥の窓から海が見えた。「綺麗…!すごいね、こーちゃんの部屋?」幸一はいつの間にやら麦茶を持ってきて
廻 さん作 [162] -
海の見える車窓3
幸一は笑いながら倒れた荷物を立て直した。その笑顔には幼なじみの面影が確かにあった。「なんでこーちゃんが!?」「もうこーちゃんはよしてくれよ、高校生だろお互い」とは言われたものの、端から見れば兄と妹と間違えられる顔つきである。幸一はすっかり大人びた顔になっていた。「嘉代ちゃんは変わらないな、小学校のときのまんまだ」麦わら帽を深く被り直すと幸一から受け取った荷物を持って歩き出した幸一の横に嘉代は並ん
廻 さん作 [159] -
海の見える車窓2
嘉代はさらに不意に被せられた麦わら帽により、男性の顔は見えなくなった。「今日は暑いから被っといた方が良い」とても親しい間柄のように話しかけてくる男性に、嘉代は戸惑った。とにかく名前だけでも聞かねば。「あ、あの、きゃっ」目の前の段差に躓いて倒れそうになると男性の腕が目の前にあらわれて嘉代を抱き止めた。男性はさらに嘉代の頭を麦わらごとガシガシ乱暴に撫でて「変わってないなぁ」と、よく分からない言葉を言
廻 さん作 [187] -
海の見える車窓1
急なことではあったが、嘉代(カヨ)は落ち着いていた。覚悟ならとうに出来ていたからだ。女手ひとつで育ててくれた母の癌が見つかったのが今から1年以上前。その時すでに手遅れだったにも関わらず、母は「高校生になるまで面倒見てあげる」と笑顔で言った口約束を守り、嘉代が高校にあがるまで生き続けた。そして今、知り合いなど誰一人居ない海岸沿いの町に越してきた。とりあえず父からの仕送りはあるので下手なことをしなけ
廻 さん作 [343]