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ITSUKI さんの投稿された作品が5件見つかりました。
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蝉の音?
涙も枯れた佑子は立ち上がり、台所の収納から包丁を取り出し、それを腹に刺した。迷いは無く、包丁は佑子の腹を指し貫いた。血液がどんどん溢れ、呼吸が巧く出来なくなる。その時、電話が鳴った。何故か佑子は電話に出なければと思い、力を振り絞って電話に出た。相手は先程出て行った長男だった。長男は声を荒げ、三男がいつの間にか見当たらなくなった、そちらに行っていないかと訊いた。佑子が答えない間に、玄関の扉が開いた
ITSUKI さん作 [227] -
蝉の音?
「今までありがとうございました」息子はそう言って出て行った。佑子は涙も出なければ、息子にすがりつくことも出来なかった。扉が閉まる音が聞こえ、鉄の脆い階段がたてるカンカンという音が聞こえた。音が止み、蝉の鳴き声が聞こえる。窓の外を見ると、林が日に照らされ、きらきらと緑色に輝いていた。佑子はじっとりと汗ばむのを肌に感じた。遂に蝉の鳴き声も止むと、佑子は卓袱台に突っ伏して泣いた。子どもの様に、叫ぶ様に
ITSUKI さん作 [266] -
プロポーズ
彼しかいない。理子はそう思った。特別なことがあった訳ではない。彼との日常を重ねるたびに、確信を深めていった。いつものように、彼が帰って来る。疲れを感じさせない笑顔を浮かべ、ただいま、と言う。理子はそれが好きだった。「もうすぐ誕生日だね、何が欲しい」遅い夕食を食べながら、彼が訊ねる。理子の誕生日は二週間後だった。理子はそれさえ忘れていたが、瞬時にこれを利用しようと考えた。婚約指輪、と理子は答えた。
ITSUKI さん作 [289] -
手紙
「拝啓、浅田真幸様。君がこの手紙を読んでいるってことは、私はもうこの世にはいないってことよね。なんてありふれてるのかしら。でもね、手紙じゃないと、私が死んだその時に君にこそ伝えたいこの気持ちを伝えられないの。ごめんなさいね、引きずらせるような真似をして。私は、君が好きだった。すごく、すごく好きだった。だから、こんなことになって、本当に残念。だけどね、私、もし私達の関係があのままだったら、そのうち
ITSUKI さん作 [282] -
汗
汗をかくことはいいことだ、と父に教わってから、有森勲はそれに忠実だった。彼は陸上部に所属し、誰より真面目に練習に励んだ。その日は、太陽は形が分からないほど輝き、うだるように暑かった。汗をかくのにうってつけの日だった。勲は時折水分を補給しながら、グラウンドを何周もした。彼の適切に蓄積された筋肉は、炎天下で逞しく黒ばみ、そんな彼の姿は他より目を引いたので、グラウンドの金網に張り付く女性も少な
ITSUKI さん作 [394]
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