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hiroさんの投稿された作品が88件見つかりました。
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天罰
少女は空に向かって祈り続けた。父に天罰が下るように。耐えられぬほどの苦しみに苛まれるように。あの日以来、ずっと………。「神様、どうかあの憎き父に天罰を」その日は嵐が街を覆い、激しい雨と強風が部屋の窓に叩きつけていた。そんなことにもお構いなしに、少女は窓を開けて祈り続けた。彼女の父親は二年前、その妻、つまり少女の母親を殺した。少なくとも彼女はそう考えている。殺したも同然なのだ。その日、彼女の父親と母
hiroさん作 [772] -
天使の箱
「死にたい」男は独りそう呟いた。いじめ。失望。リストラ。鬱病。借金。離婚。そして孤独。生まれてからこの四十年間、あらゆる苦難が男を襲った。もはや生きることが最大の苦痛であった。それゆえ男は、強く死を望んだ。しかし男には勇気がなかった。死を望んでいながら、一瞬の苦しみを恐れ、なかなかその命を絶つことができないのだった。そんな哀れな臆病者の前に、ある日突然、小さな天使が現れた。「あなた、死にたいのでし
hiroさん作 [1,219] -
危険な薬
博士の外出中、博士の唯一の助手であるその男は、何をするでもなく、研究室で朝からずっと留守番をしていた。しかし男は、あまりにも退屈なので、博士の発明品を眺めたり少しいじったりして暇をつぶしていた。助手とは言っても、普段は掃除などの雑用ばかりで、博士の発明にはほとんど携わっていないのだ。「これは一体何の薬だろうか」男はそう言って、机の上に置いてある、薬のたくさん入ったビンを持ち上げた。そしてそのすぐ
hiro さん作 [1,964] -
愛情のこもった夕食
仕事で疲れて帰ってくるであろう、我が愛する夫のために、今日の夕食も張り切って作るぞ!さあ、早速始めよう。まずは、新鮮な愛情を水ですすいで汚れを落としてから、1センチ角に切って、加熱したフライパンにそれを入れて、軽く炒める。そこに、愛情から搾り取った汁を流し込んで、20分程かけて弱火でじっくりと煮詰める。時間をかけてやるのが大切なのだ。次に、別の愛情を、細かくみじん切りにして、苦味をとるために布に
hiro さん作 [930] -
ある少年の日記
奇跡的にも、その日記帳だけがきれいに形を保っていた。日記帳の最後の数ページ、次のようなことが書かれていた……。5月 5日 水曜日今日はどしゃぶりの雨だった。台風らしい。ぼくの家は古いから、天井から雨水がたれてきて大変だった。こどもの日なのに、どこにも行けなくてつまらなかった。5月 6日 木曜日今日の朝、庭を見たら、ぼくよりも年上のみかんの木がたおれていた。きのうの台風のせいらしい。もう、みかん食
hiro さん作 [1,508] -
表裏一体
赤、青、緑、黄、桃で構成された5人組のヒーローたちがいた。彼らは長い間、街の平和を守ってきた。それゆえ、子どもたちの憧れの的であった。しかしそんな彼らに、今までにない最大の危機が迫っていた。5人のヒーローたちは口々に言った。「お願いです。俺たちは反省しています」「僕たち5人の運命は、あなた1人にかかっているのですよ」「俺らに力を貸して下さい」「あなたがここで頑張ってくれないと、わたしたち…」「と
hiro さん作 [1,050] -
叶った願い事
静かな夜だった。空には無数の星が散らばっている。その中を、一際明るい星が横切った。流れ星。サキはそれが流れる一瞬の間に自らの願い事を3回言い放った。「アイコと入れ替わりたいアイコと入れ替わりたいアイコと入れ替わりたい」うまく言えた、とサキは確信した。サキの魂を、裕福で楽しい生活を送るアイコの身体へ、アイコの魂を、貧乏でつまらない生活を送るサキの身体へと移して、お互いの魂を入れ替えて欲しい、と言う
hiro さん作 [1,220] -
大切な何か
朝。窓から注ぐ淡い光が、机の上の写真立てを照らしていた。青い海と空を背景に、僕と陽子が楽しげに笑って、並んで立っている写真である。幸せ。この写真を見るたびに、そう思う。そしてこの部屋には、幸せが充満している。「今日もいいお天気ね」陽子が笑った。「久々に、二人で散歩でもしないか」僕がそう提案すると、彼女がまた笑った。しばらくして僕らは散歩に出掛けた。「わたし、本当に幸せだわ」「こんな日が永遠に続け
hiro さん作 [930] -
幽霊の犯人さがし
僕は幽霊。誰かに殺された。実は、殺された時のショックでほとんどの記憶をなくしてしまった。だから、僕を殺した憎き犯人を見つけないと、どうしても気になって、呑気に成仏もできないのだ。僕が自殺したとも考えられるが、それはないと確信している。そんな自分を自分で殺すような愚かな人間ではなかったような、という漠然とした記憶は残っているからだ。何かの事故で死んだ可能性もあるが、僕はそんな間抜けで、不注意な男で
hiro さん作 [1,129] -
見えるメガネ
「このメガネをかけると、人が自分をどう見ているのかがわかる。自分の姿を見た人の額に、数字が浮かんで見えるのだ。100が最高で50が平均。数字が大きい程いい。要するに、人の自分に対する印象の良し悪しが、数字として見ることができるのだ」博士の説明を聞いて、男はメガネを受け取った。その男は、自分の顔に自信を持っていた。だからこそ、人の、自分に対する印象が気になっていたのだ。それで男は、博士にそのような
hiro さん作 [1,030]