トップページ >> S・U さんの一覧
S・U さんの投稿された作品が187件見つかりました。
-
エンブレム?
それは、月の綺麗な夜のことだった。私は、いつものように人が掃けた喫茶店のカウンターで、読書に耽っていた。この時間ともなると客もあまり来店しないので閉店までの残り二時間はいつも私のその日唯一の自由時間となる。だが、その日だけは違った。カランカランと来客を告げるベルが鳴り、反射的にイラッシャイマセと言いながらそちらを見ると、そこには暗く、ヤツレタ表情を浮かべた女性が一人立っていた。女性は無言でカウン
S・U さん作 [329] -
エンブレム〜第一章〜
人は時間が経てば嫌なことを気にしなくなる。辛いことがあっても、そんな事は何年も経てば精々悔やむ程度で済む。怪我をしても何日も経てば塞がる。足をぶつけた痛みも何十分も経てば消える。つまり、時間とは人間を救う最も効果が出るのが遅い特効薬なのだ。でも、どんな薬にも副作用があるように時間にも負の部分が存在する。時間で治せるのは今現在を“幸せ”と感じている人だけなのだ。幾ら時間でも、“現在進行形で続いてい
S・U さん作 [248] -
エンブレム〜序章〜終 後
「…」『追ってこい』「追うさ、何処までだって…」いつか出逢う日が来るその日まで、何処までも…何処までも追い続けてやる。そして、この手で…必ず…っ。だから…それまで待っていろ。「…」「――いつまで洗面台に居るつもりですか。早く来て下さい、食事が冷めてしまいます」遠くからそう呼ぶ声が聞こえてきた。相当苛ついているのかその声質は中々に不機嫌だった。「ああ、分かった。ちょっと待ってろ」俺は少し慌てるよう
S・U さん作 [292] -
エンブレム〜序章〜終 中
彼女は怒るように言い肩に掛かっていた白髪を払った。「いや、そうは言うけどさ昨日の依頼結構キツくて寝る暇なかったから――」「しょうがない…とでも言い訳する気ですか?」「…」…仰る通りで御座います。「…まあ良いです、さっさとその寝惚け眼を水で覚ましてきてください…」呆れたような目で俺を見た後彼女は部屋を出ていった。「…」無言で俺はベッドを見た。二度寝しろぉ二度寝しろぉと布団が語り掛けてくる。「――ち
S・U さん作 [274] -
エンブレム〜序章〜終 前半
「――鷺沼」男はボソリと何かを口にした。「!?」「俺の今の名だ。殺したい奴の名くらい知っておきたいだろ、少年?」そう言って男は笑う。それと同時に部屋の火の勢いがさらに速まった。…もう時間がないっ!「はは、じゃあな少年。また遭おうぜ?」「っ…!」畜生っ!「――――」そう言って男は天窓から消えていった――。*ペシペシと頬を叩かれる感じがした。「……るさい…」寝惚けた調子で俺は叩く何かを払った。…よし
S・U さん作 [288] -
エンブレム〜序章〜?―?
「共鳴交差…といったところか…。く、くくくくく…凄いなっ少年。昨日までの不安定な力は何処に行ったよ?」「黙れよ…っ、てめぇ…」震える体を剣で支えながら俺は虚勢を張った。「早く…立ちやがれ…っ!焼き刻んでやる…っ!」「…はは、そう慌てんなよ少年。安心しろ、言われなくてもやってやる。殺ってやるさ。だがな…っ」そう言って男は人形の肩に手を掛けた。そして…。ヒュッ…。「なっ…」あの野郎っ…。「それは今じ
S・U さん作 [226] -
エンブレム〜序章〜?―?
「人形…遣い…っ!」俺は憎悪を込めた目で男を睨み剣を突き出した。「おお、おお、心地好い憎悪と殺気だな。夢に出そうだぜ」チャラけた様子で男は言う。「しかし、随分と暴れてくれたな。危うくこの子まで焼けちまう所だったぜ?」男はそう言ってこちらを向き右の親指で等身大の人形を飾るような箱を指差した。その箱には…裸体の女の子が飾られていた。「!?か…っ!」――奏だっ!「奏ぇぇっ!!」俺は飛び掛かるように男に
S・U さん作 [242] -
エンブレム〜序章〜?―?
「俺さ、ずっと自分はどっか壊れてるんだって思ってた。どんな楽しい事をしているときでも、いつも心の何処かで人を憎んでて、何処かで人を恨んでたから」大切な人が死んでから…大切な人を奪われてから…。あの日からずっと…。「…」「だから、昨日あんな事聞かれたときも、『俺は十分壊れてるから、もうこれ以上壊れる事なんて出来ない』って思ってた。けどさ…」歪んでいた建物が段々と元の形に戻っていく。その建物からは今
S・U さん作 [238] -
エンブレム〜序章〜?―?
「…先入観?」「例えばここに小さな箱があったとします。『この箱にはリンゴが入ってるよ』と言われた後その箱を持って重さを確認できたら中にはリンゴが入っていると認識しますよね?」「ああ、うん多分」「それと同じ原理なんですよ、このタイプは。これを初めて見た人だったら『ここに人は居るのかな』とまず思ったりしますが、そこですかさず別の人から『ここは廃墟だから』と言われれば『ああ、ここは廃墟なんだ』と思いま
S・U さん作 [285] -
エンブレム〜序章〜?―?
「――さてさて」男がそう言ってブースの側によるのと扉が二つに切り分けられたのは完全に同時だった。「――よお…」ブースを火から守るように人形を配備しながら背中越しに男は言う。刹那、部屋のあちこちから火柱が上がった。そして切り分けられた扉から一つの影が飛び込んできた。「――見付けたっ」その影は男に気付いた瞬間そう言葉を発した。男は笑みを浮かべその影に話し掛けた。「――1日振りだな、少年」*「…幸姉、
S・U さん作 [311]