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砂春陽 遥花さんの投稿された作品が39件見つかりました。
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MLSー001 038
否、化け物ではない。生物でさえない。「あなたが違和感をおぼえるのは不可能だった。」記憶の中の花鼓が暗い目をあげ、そして、涙を浮かべて笑った。「MLSの完成は、第五次元開発計画の最終目標。」「海滝がMLSの開発者なのか。」俺はあのとき、花鼓を励ました。いや、そうと知らずに、花鼓に成り代わったMLSを。「そういうこと。」喉の奥まで吸い込めない空気が、冷たさだけを胸へ送り込んでくる。相手は造られたもの。
砂春陽 遥花さん作 [952] -
MLSー001 037
「MLSは、相対する人間との関係を操作することが出来るの。」皇鈴はコーヒーカップから手を離し、テーブルの上で指を組んだ。向かい合わせに座る明広の眼が次の言葉を待っていた。「あなたの前に居れば、あなたの父にも母にも彼女にも親友にもなれる。もちろん、中学校の影の薄い同級生や、はたまた道でたった一度すれ違っただけなのに何故か印象に残っている誰かかもしれない。」「完全に自由自在か。」「そういうこと。」窓の
砂春陽 遥花さん作 [931] -
MLSー001 036
そこに書かれている事実は、為政者の意図を露骨に反映した部分的事実である。しかし、それでも、事実であるには違いない。あの日、海滝博士が皇鈴に話した物語。東洋の鬼才がしばし見た泡沫の夢か、近い未来の現実か。当人亡き今、皇鈴は未だ判別出来ずに居る。「MarginalInformationControleSystem。」突如、皇鈴の口からつらつらと語られた異国の言葉は明広の動きを止めた。「通称、MLS。」
砂春陽 遥花さん作 [864] -
MLS-001 035
「たまには悪役も悪くないだろう?」華北の雪原に建つ研究所の中。長い話を終えた海滝博士は、自らのことをそう皮肉った。分厚い二重窓の外は、澄んだ大気の下に延々と白い大地が続く。鋭く尖る岩山が天地を分かつ。「いつもでしょう?」ずっと聞き手に回っていた皇鈴は口を開いた。テーブルの上の2つのコーヒーカップを揺るぎない手で盆の上に移していく。「君も言うようになったねえ。」博士はソファーを立ち、ゆっくりとした足
砂春陽 遥花さん作 [876] -
MLS-001 034
痛み止めが切れたのか、少し動かしたのがよくないのか、唇の傷口が熱かった。「選ぶ、とは…」「助けないだけよ。」眉をひそめた青年を女は鼻で笑った。「全身を検査して助ける子を一人、決めたわ。」ゴクリと唾を飲む音が耳の奥に響く。「死ぬまで目を覚まさないかもしれない子が、起きて、歩けて走れて跳べて、記憶も知能も\r何もかも元通り。」前へ進もうと踏み出した足が、地中へずぶずぶと沈んでいく感覚に襲われた。これ
砂春陽 遥花 さん作 [1,230] -
MLS-001 033
皇鈴の黒い目に、白い意志が光っていた。「MLSには力があるけれど、貴方にはない。だから、知識だけでももっておいてほしい。」ほしい…何故か語尾だけが耳に残ったが、その訳は敢えて追わない。明広は間を置かず、心の向くままに言葉を重ねた。海滝博士にお会いになったのですか?皇鈴がうなずき、テーブルの上に視線を落とす。その沈む目線につられるように、今度は、声が出た。「もしや、医者が紹介した研究者が?」休んで
砂春陽 遥花 さん作 [1,203] -
MLS-001 032
明広がまず思い描いた答えは、至極常識的な解答だった。…それは虱潰しに一階から…病院の桜色の階段を足早にあがる女の姿が、目に浮かぶ。考える端から文字になっていく答えを、皇鈴の明るい声が遮った。「一室一室、全部見て行くの?そんな面倒くさいことしないわよ。」いたずらっぽい目が、明広の次の答えを待っている。そうか、俺の思考を読んだんだ。明広は、大切な事実を思い出し、でかしたぞ自分、と心中ほくそ笑む。「残
砂春陽 遥花 さん作 [1,180] -
MLS-001 031
「ひどい事故だったみたい。父さんは、ほとんど即死だったって。」熱気を帯び始めた防波堤の上。刻々と強くなる太陽の光に促され、真龍はゆっくりと話し始めた。「私と姉さんは、手術に手術を重ねて、やっと生き残ったけど、管に繋がれたまま、一年、眠りっぱなし。お母さん、たった一人で私達の看病しながら、少しずつ仕事して、生活費も切り詰めて、それでも、一年経つ頃には貯金の底が見え始めた。人工呼吸器も点滴もなくなっ
砂春陽 遥花 さん作 [926] -
MLS-001 030
花鼓の頭の中に、真龍の言葉は、細い棘のように引っかかった。「ねえ、花鼓。」「ん?」「あっ、呼び捨てでいい?」不安げに花鼓の顔を覗き込む真龍。その真っ直ぐな瞳に気付き、花鼓は、慌てて笑顔で付け加えた。「いいよいいよ、なになに?」「手、繋いでも、いい?」刹那、真龍のためらいが風となって2人の間を舞った。「さっき、みたいに。」うなずいて花鼓が差し出した右手を、真龍の細い左手がしっかりと握った。花鼓に笑
砂春陽 遥花 さん作 [835] -
MLS-001 029
突如、首筋がゾワッとした。「おはよう。」耳元で、ささやく声。花鼓は、驚いて、立ち上がった。「誰?」遮る物のない太陽に暖められ、膨張した、湿った空気が顔にまとわり付く。辺りを見回すが、人影は、ない。花鼓の声に、真龍は目を覚ました。寝ぼけ眼でぼんやり空を見上げた真龍の目と、眩しい青空をバックに、立ったまま見下ろす花鼓の目が、合った。真龍は慌てて起き上がった。「ご、ごめんなさい、私…」顔に張り付いてい
砂春陽 遥花 さん作 [797]