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アンヌ さんの投稿された作品が334件見つかりました。
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子供のセカイ。163
長身の男は、灰色のマントにすっぽりと身を包んでいた。暗がりの中でもわかる、小麦色をした絹のように滑らかな長い髪。細い顎を誇示するように顔を高く上げ、青い瞳でこちらを見下ろしている。その残忍そうな光を宿した瞳を見た途端、耕太の中で数日前の記憶が、鮮明にフラッシュバックした。「……!」それが「誰」であるのか認識した途端、心臓に触れられたような冷たい恐怖に捕らわれ、耕太はぴくりとも動けなくなった。それ
アンヌ さん作 [377] -
子供のセカイ。162
姿が見えなくなった途端、耕太はひそひそと美香に囁いた。「あいつについていって大丈夫なのかな?なんか態度悪くねぇか?」「仕方ないわ。他にコルニア城へ向かう方法はないし……。ここにいるミルバが信頼できないなら、さっきまで一緒にいたミルバを信じればいいのよ。」もっともな美香の言葉に、耕太はしばらく黙っていたが、やがて一つ頷いた。ミルバがひょいっと曲がり角から顔を覗かせ、いつの間にか立ち止まっていたこと
アンヌ さん作 [401] -
子供のセカイ。161
ミルバは無傷だった。それどころか、髪の毛一本さえ乱すこともなく、ゆったりと体の後ろで腕を組み、泰然と構えている。無事な姿に喜んで駆け寄ろうとした美香たちは、次にミルバが放った言葉に、思わず体を固くして立ち止まってしまった。「やあ、初めまして。君たちがもう一人の私が言っていた、『希望の』光の子供たちかな?」ミルバはそう言って、先程よりさらに優雅に――それこそ、嫌味なくらい優雅に微笑んだ。その場でた
アンヌ さん作 [361] -
子供のセカイ。160
「…っ!嘘でしょ!?」「どうした?」美香はゆっくりと扉を開けた。そこに広がる光景を見て、耕太は絶句してしまった。夜闇の中、月光が照らす洋館の前庭にオブジェのように転がっているのは、夜羽部隊の女たちだった。二人は恐る恐る洋館から足を踏み出し、倒れ伏す女たちを見渡した。――七、八人はいるだろうか。美香は戦慄を覚えずにはいられなかった。ミルバはあの短時間で、一人でも恐ろしく強い戦闘集団の女をこれだけ多
アンヌ さん作 [363] -
子供のセカイ。159
美香は、「ありがとう」と呟くと、わずかに目元を歪めた。悲しいという思いが、静かな泉のように胸を満たした。舞子を消したいと思っている人は、この“子供のセカイ”に何人いるのだろう?以前ジーナの砂漠にいた時と同じ思いが沸き上がり、胃がきゅうっと縮むような寂しさを感じた。ミルバは二人の手を離すと、美香と耕太の間を通り、洋館の正面扉の前へと進み出た。「それじゃあ、行こうか。わからないことは、すべて別の私に
アンヌ さん作 [365] -
子供のセカイ。158
ミルバは二人の手を取ると、幼い子供がそうするように、ぎゅっと強く握り締めた。「何はともあれ、今は君たちが無事に城へ辿り着くことが第一だ。決して無理をしてはいけないよ。いざとなったら、道案内を務める私を、見殺しにしてでも進んでほしい。」美香も耕太も、何も答えることができなかった。未だに状況がよく掴めていない。ただ、自分たちの手を握り締めているこの子供は、本当に「普通の人間」なのだろうかというのが、
アンヌ さん作 [407] -
子供のセカイ。157
二人の言葉に、ミルバの口元にようやく笑みが戻った。「さっき『易々と信じるな』と言ったばかりで、申し訳ないんだけどね。だが私のことに関しては、何もかもが異例すぎる。君たちが信じてくれなかったら、私はまた、別の誰かを探しに行かねばならないところだった。」ミルバはまた意味深なことを言う。美香はその、ミルバ自身のことについて色々と聞きたかったが、その時、すっと顔を天井へと向けたミルバの眉間が険しいのに気
アンヌ さん作 [473] -
子供のセカイ。156
子供は嘘をついているようには見えなかった。今やその唇には笑みの欠片も見えず、床へと落ちた視線は、大人びた憂いを帯びている。ミルバと名乗る子供の静かな瞳を見つめながら、美香はただ困惑するしかなかった。仮にこの子供が本当に前支配者だとしても、その発言は謎に満ちている。処刑された本物の支配者とは、一体どういうことなのか。処刑される、イコール死ぬということのはずなのに、なぜ子供は生きてここに立っているの
アンヌ さん作 [416] -
春を唄う
彼女たちのために唄うのは傲慢だろうか日の光が美しい春の午後冷たい風桜の命を容赦なく散らしていく街は喜び勇んでぐうっと背を伸ばしあの青の中で笑っている小さな生き物たちが目を覚ます季節新たな衣装をまとって春が楽しげにスカートのすそを持ち上げ駆けていくそんな当たり前のことが胸に染みる――今年の春を迎えられなかった多くの命の代わりに私は大きく息を吸い込むそしてやはり唄い出した幸せを幸せだと囁く小さな唄を
アイ さん作 [383] -
子供のセカイ。155
耕太が美香を見上げて、「ほら、前に俺が言ってた奴だよ、覚えてるだろ!?」と興奮気味な口調で言ったのを聞き流しながら、美香は耕太と同じように片膝をついて、子供の顔をのぞきこんだ。「あなたは誰なの?」子供は笑みを引っ込め、神妙な顔つきになった。「今私たちがここにいるのは、あなたが何かしたせいなの?」美香はホシゾラの言葉をよく覚えていた。それにジーナの言葉も。『……ありえないわ。“闇の小道”と触れ合え
アンヌ さん作 [444]