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アンヌ さんの投稿された作品が334件見つかりました。
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子供のセカイ。154
隣を見れば同じように目を丸くした耕太が、キョロキョロとあちこちを眺めている。美香と目が合うと、信じられない、という顔をした。「美香……これ、どういう……?」「間に合ってよかった。」また背後から声が聞こえる。それは間違いなく大人のそれで、低く落ち着いてはいるが、どこか風のように爽やかだった。何かに気づいたように、耕太はすごい勢いで後ろを振り返った。美香もそれに習う。そして言葉を失った。先刻美香たち
アンヌ さん作 [411] -
子供のセカイ。153
跪いた美香の前で、二人の女たちがそれぞれに手に持った長剣を振り上げた。一人が失敗したら、残るもう一人が刃を降り下ろす手はずなのだろうか。そんなことをぼんやりと考えている自分に、どこまで他人事なのだと、美香は思わず苦笑した。まるで死ぬことを理解していないようだった。実際、あまりにも現実味がない。“子供のセカイ”はいつだってリアルだったが、今はそれさえも疑わしい。観念した、というわけではなかった。た
アンヌ さん作 [432] -
子供のセカイ。152
何の笑いも、喜びも映さない瞳。強い拒絶の意を放つ、孤高の戦士の瞳。耕太は美香のこの目が嫌いだった。自分は一人だと、誰からの救いも求めてはいないのだと、暗に告げる瞳は、あまりに冷酷で悲しかった。しかし美香は、それを己のためにやっているのではない。自分以外の人間を危険に巻き込まないために、わざとそのように振る舞っているのだ。“真セカイ”でそれに気づいたのは、耕太ただ一人だった。美香の両親は、娘が心の
アンヌ さん作 [404] -
子供のセカイ。151
うずくまる美香と耕太を包囲する形で、女たちは次々と地面の上に降り立った。赤く冷たい、何の光も宿さない幾対もの瞳が、じっと静かに二人の姿を捉えている。二十人ほどの女たちは一斉に、まったく同じ動きで長剣を身体の前に構えた。磨きあげられた美しい細身の刀身が、絶望的な表情を刻んだ美香と耕太の顔を映し込んだ。(ヤバい…!ヤバいヤバいヤバい!どうする!どうすればいい!?)耕太はごくんと生唾を呑み込んだ。情け
アンヌ さん作 [429] -
子供のセカイ。150
「うわああ!」「きゃああ!」二人は思わず悲鳴を上げ、もつれるように門扉に倒れ込んだ。体当たりのような形となり、その衝撃で門がガシャンと派手な音を立てて開く。「う、うあ…!」「美香、大丈夫か!?」頭を強く打った美香は呻き声を上げ、耕太はそんな美香の肩を支えた。美香はようやく頷き、後ろを振り返ると、無数の小刀が前庭のあちこちに突き立っていた。耕太に引っ張りあげられる形でなんとか立ち上がり、二人は脇目
アンヌ さん作 [413] -
子供のセカイ。149
普段なら容赦なく言っただろうが、今は美香も弱っている。「舞子を憎みたくない」と、その本音を聞けただけでも、耕太としてはありがたかった。やはり舞子よりも美香の方に関心がある耕太としては、単純に「舞子を助けるため」に命を懸けるには、動機が薄かったからだ。しかしそれを美香が心から望んでいるのなら、耕太の方も心構えができる。「話してくれてありがとな。」耕太は美香の頭を軽く撫でて言った。普段なら子供扱いを
アンヌ さん作 [411] -
子供のセカイ。148
舞子のために犠牲にしてきたものは確かに少なくない。だが、それだからこそ、もう美香に残されているのは、舞子と共に生きるという選択肢しかなかった。だから耕太の言うほどに、美香の心は単純ではない。舞子は苦しみの根源であると同時に、今の美香にとって大切な支えでもあるのだ。耕太は泣き続ける美香に心苦しいものを感じたのか、ばつの悪そうな顔でのそりと起き上がった。「……ごめん。悪かったよ。泣かせるつもりじゃな
アンヌ さん作 [377] -
そのままのあなたで
あなたを渡してほしい何もかも明け渡して真実なんて陳腐な言葉で飾らなくていいからもっと本質的なあなたが見たいのです一つの悩みがあってそれがいくつもの不安に枝分かれするんだ悲しみが悲しみしか産み出さないことを理解しているんだ人を信じられなくても前なんて見えなくても限りなく限りなく生きていかねばならないから温かく息を吸えるならどこだっていいんでしょう?私じゃ不満足かもしれないけどあなたの痛みを癒せるほ
アイ さん作 [369] -
子供のセカイ。147
美香は、どくどくと嫌な音を立てて鳴る心臓を抱えきれずに、絶望した。違う、絶望したのは心臓のせいなんかじゃない。今この時に始まったことでさえない。美香は、ずっと目を背け続けていた。本当は、舞子が最初に“子供のセカイ”を開いたその時から、ずっと言い様のない絶望を感じていたのだ。耕太は美香の逆鱗に触れることをわかっていて、それでも一歩も引かなかった。「だから、お前は本当に舞子のこと助けたいと思えるのか
アンヌ さん作 [425] -
子供のセカイ。146
「これからどうする?」「そうね……。ここから出た方がいいかもしれない。今の人が仲間に連絡してたら危ないし。」「つか、こいつは何なんだろうな?」耕太は薄気味悪そうに、ピクリとも動かない黒装束の女を見下ろした。「追手なのは間違いないけどさ。なんか……変だったよな?人間らしくないっていうか……。それに、明らかに美香を狙ってた。」「……どうせ舞子の想像物でしょ。」美香はあっさりと言い放つと、女から目を背
アンヌ さん作 [397]