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ティシュー さんの投稿された作品が17件見つかりました。
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十字路とブルースと僕と俺 30
午後8時。おれは十字路にいた。手にはギターの入った革のギターケースを持っていた。雪こそ降ってはいなかったが、寒さのほうは相変わらずだった。日中にほとんど溶けてしまった雪は、遠い山の上のほうに白くみえるものと、影になって陽の当たらなかったところにいびつな形で残っているものとが、所々に見られる程度だった。十字路を四方から照らす外灯の一つがチカチカと一定の間隔で点いたり消えたりしていて、そのたびにジッ
ティシュー さん作 [237] -
十字路とブルースと僕と俺 29
外の世界は見渡す限りの雪景色だった。家も車も木も道も山も、すべてが真白にデコレーションされていた。雲間からの真冬の陽射しが燦々と雪面に降り注ぎ、そこら中を惜し気もなくきらきらとかがやかせていた。おれと祖母はホコリっぽくひえびえとする物置部屋にいた。足の感覚が麻痺しそうなほど室内の木床は冷たく、開け放たれたままの扉のほうからは陽射しひとつ入ってはこなかった。室内にある唯一のガラス窓は磨りガラスにな
ティシュー さん作 [269] -
十字路とブルースと僕と俺 28
聴き間違えではない。おれは自分の耳にはそれなりの自信を持っていた。絶対音感があるわけではなかったが、今まで様々な音楽を聴いて多種多様のギターの音色を聴いてきた。ギターの種類が同じでもまったく同じ音が鳴るとは限らない。弦の違いや個々のセッティングの違い。一人一人の癖や使い方によっても変化するものだ。その微妙なちがいがおれにはわかる、正確にはわかるような気がしていた。この当時のおれはうだつのあがらな
ティシュー さん作 [256] -
十字路とブルースと僕と俺 27
ギターを手に取り、ゴージャスなギターケースから引っ張りだした。当たり前のことだが、ギターにはこれっぽっちの血も通ってはおらず、ヒンヤリと感じた床板よりもさらに輪をかけて冷たかった。祖母は何も言わず、ただただギターとおれを眺めていた。何を想っていたのかはわからない。しばらくのあいだ、とても静かな時間が流れた。おれが間違って弦をはじいてしまうまでは…。音はみごとに外れていた。何十年ものあいだ、誰ひと
ティシュー さん作 [240] -
十字路とブルースと僕と俺 26
革張りのギターケースは冷え冷えとした四畳半に寝そべっていた。布をひっぺがされたそいつは、少し寒そうにみえて、隠され続けていた存在感はこの部屋の中においては群を抜いていた。「これって…じいちゃんの…」「…そう」祖母は穏やかにうなずいた。「…開けてみてもいい?」「もちろん」膝を折りギターケースの二カ所の金具を開けた。パチンッ、という耳障りの良い音が部屋の中に響いた。はじめにケースの内側の赤いビロード
ティシュー さん作 [359] -
十字路とブルースと僕と俺 25
祖母はオレンジ色の何処か懐かしい光を浴びながらおれに手招きをした。おいでおいでと小さな子供を呼ぶときのようなしぐさだった。木目の板張りに足を踏み入れると縁側の床板よりもヒンヤリとしていたが、橙色のはだか電球の光はそれとは逆にあたたかみがあった。先に入り込んでいたおれの触れる事のできない黒い分身は徐々におれの後ろへと移動していた。「この荷物、ちょっとどかしてもらえる?重くっておばあちゃんは腰がぬけ
ティシュー さん作 [274] -
十字路とブルースと僕と俺 24
ずっと降り続けていた雪はいつの間にかこっそりと止んでいた。目の前にはユラユラと揺らめく湯気が立ちのぼる真っ白い白米にネギがとっぷりと浮かんだ味噌汁、ネギ入りの納豆に自家製の大根のたくわん、数種類の山菜のあえものが所狭しとコタツの上に並んでいた。祖父の形見の品々は広々とした居間の片隅に一緒くたになってかたまっていた。重なりあう品々の頂点には帽子の入った四角い箱が置かれていた。食後、玄関のガラスの向
ティシュー さん作 [257]
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