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夢の字 さんの投稿された作品が61件見つかりました。
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落花流水、10話。
「? やっと、諦めた? だったら凄い助かるんだけど」 俺の口からはもう嘆息も舌打ちも零れない。そんなこと、出来はしない。出来たことと言えば、息を飲み、これから怒るであろう出来事に対し、覚悟を決める事だけ。相手に俺を殺す気は無さそうだが、例え此処で難を逃れたとしても、仕事の失敗のツケは必ず着いて回る。なんせ依頼主は立場のある政治家で、しかも部下に首を吊らせるような、しかも俺みたいな立場の人間を雇う
夢の字 さん作 [365] -
落花流水、9話。
隙を見て、主導権を取り戻す。今回のは仕事は、『見届ける』だけでなく死因を自殺にしなければならない。死体に傷を付けられた時点で終わりだ。それが死後の物であろうと、生前の物であろうと、彼の死に他人が介在した証拠になる。そうすれば仕事は失敗になるし、下手すれば警察に追われる事になる。そのうえ、失敗の代償を命で払う事にもなりかねない。 ……それに、何よりも。俺の仕事を台なしにするその行為が許せない。
夢の字 さん作 [395] -
落花流水、8話。
「死神」「……は?」 間抜けな声を出すのは、今度は俺の番だったようだ。予想だにしなかった答えに、知らず、俺の口からは頓狂な声が漏れていた。こいつは、何を言っている?「だから、死神だってば」 その言葉を無視し、瞬きを、数度。それで何とか平静を取り戻し、半ば怒鳴り声に近い勢いで再度問い詰める。ふざけるな、とも付け加えて。だが帰って来た答えは全く同じもので、俺は思わず……こんな状況だというのに、頭を抱
夢の字 さん作 [393] -
落花流水、7話。
人影は俺の事など眼中になかったのらしく、「へ?」と間抜けな声を発しただけで抵抗はせず、突き飛ばされたそのままの勢いで強かに頭を床にぶつけていた。対する俺は人影に覆いかぶさったまま視線を巡らせ、突き飛ばされた衝撃で人影が落とした物を探していた。一瞬の、間。「……っ何を――――!?」 ようやく自分の身に起きたことを理解したのだろう。口を開き俺に対して何らかの行動を起こそうとするが、遅い。人影が何か
夢の字 さん作 [386] -
落花流水、7話。
人影は俺の事など眼中になかったのらしく、「へ?」と間抜けな声を発しただけで抵抗はせず、突き飛ばされたそのままの勢いで強かに頭を床にぶつけていた。対する俺は人影に覆いかぶさったまま視線を巡らせ、突き飛ばされた衝撃で人影が落とした物を探していた。一瞬の、間。「……っ何を――――!?」 ようやく自分の身に起きたことを理解したのだろう。口を開き俺に対して何らかの行動を起こそうとするが、遅い。人影が何か
夢の字 さん作 [381] -
落花流水、6話。
俺は、見届け屋だ。自殺すると決意した者の覚悟を、末路を見届ける。どのような事実があり、どのような経緯があって死に至るのか。それを見届けるのが、俺の仕事。つまりは、自殺幇助。この国では立派な犯罪の一つだ。 そんな犯罪に手を染めた事の発端を、俺は覚えていない。何がどうしたのかは分からないが、気が付けば此処でこうやって、名も知らぬ誰かの死を見届けている。 今回の仕事は前回の彼女と違って醐鴉からの斡旋
夢の字 さん作 [393] -
落花流水、5話。
マスターのあまりの熟睡っぷりにコーヒーを頼むことを早々に諦め、醐鴉は本題に入る。内容は仕事の事だった。「たまには休めと言っておいて、その舌の根が渇かないうちから仕事の話、か」「仕方ねぇだろ。入っちまったんは……っつっても、仕事入ってるのは明後日だ。それまではゆっくり休めるだろ」 醐鴉の口から、呆れたような溜息が漏れる。働きすぎは良くない、と言った手前強くは言って来れないのだろうが、それはこちら
夢の字 さん作 [400] -
落花流水、4話。
「いよぅ、百目。相変わらず湿気た面してんなァ、お前は」 いつもの、お気に入りの喫茶店。待ち合わせ相手は約束の時間から10分遅れでやってきた。逆立った短い茶髪に、太く凛々しい眉。泣きぼくろが付随する垂れ目に、口許には人懐っこい笑み。顎に残る不精髭と、だらしの無い服装を正せばそれなりに見られる外観の男――名前は知らない。ただ、『醐鴉(ごがらす)』と俺は呼んでいる――が、笑いながら椅子を引いて、俺の対
夢の字 さん作 [387] -
落花流水、3話。
どれくらい、そうしていただろうか。実際には数えるまでもない刹那の事だろうが、何をするでもなく曇天を見上げていた俺は、携帯を床に落とし、踏み砕いた。プラスチックが砕ける音が響き、呆気なくそれは役目を終える。勿体ない、とは思わない。何の感傷も無い。どうせこれも仕事用の携帯……何処の誰ともつかない人間に醐鴉が用意させた物だ。足が付かないように早めに処理しておくのが吉だろう。 近くから人の叫び声が聞こ
夢の字。 さん作 [415] -
落花流水、2話。
「やっぱりもう、限界なんだよ」 よくある地方都市の、郊外にあるひとつのアパート。十階建ての七階の位置に俺はいた。非常階段の踊場。もうじき暮れとなるこの時期は、空気も風も酷く冷たい。携帯を握る手が寒さに震える。暖をとりたい、と思わずにはいられない。冷える。心まで。「運動は出来ても勉強は出来ない、元気だけが取り柄の女の子。いっつもニコニコしてて、悩みなんか無いみたいな娘。それがあたし」 握りしめた
夢の字 さん作 [367]