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うー さんの投稿された作品が19件見つかりました。
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雨の日の洗車<終>
<6>数年が経ち、少年は二十歳になっていた。僕も成長を遂げ、なんとか職に就いていた。隣の少年の家にはもう一台車が増えていた。たぶん、少年のものなのだろう。その日はあの日と同じ雨天だった。僕が出掛けようとすると同時に、少年も車に乗り込もうとしていた。少年は、これからなにかと闘うような強い目でハンドルを握ろうとしていた。偶然にも、僕が向かう方向と少年が向かう方向は一緒だった。少年の後ろを走る形で、僕
うー さん作 [692] -
雨の日の洗車5
<5>「〇〇薬品でーす。薬のご提案に伺いましたー」営業マンの声は、雨が浸したアスファルトに反響し、僕の家にまで聞こえてきた。「どうもー!」そう応えたのは少年の母親らしき声だった。知り合いか?と思わせる対応に一瞬耳を疑ったが、〇〇薬品は悪評の高い製薬会社で、ここら辺の人なら皆知っている。契約を結んでる家は皆無だった。不審気に思って側耳を立てた。雨音が二人の会話を打ち消し、内容は聞き取れなかったが、
うー さん作 [593] -
雨の日の洗車4
<4>少年は隣の家に住んでる中学生だった。どこか勝ち誇った表情で、ほくそ笑んでるように見えた。視線は強く、店員をじっと睨んでいた。それから数日が経った。好天に恵まれない日が続き、僕もいまだに晴れはこない。ボーッと幾つもの暗雲から延びる線を見詰めながら時をやり過ごしていた。こんな雨の中誰だろう?自宅のチャイムが響く。おもむろにに玄関を開けると厄介な営業マンだった。欝陶しい、面倒臭い、迷惑だと同時に
うー さん作 [541] -
雨の日の洗車3
<3>会社を辞める原因となったあのとき、むやみに怒りを爆発させなければよかったと、今さらながら後悔する。僕は、所謂大人の怒り方を知らなかった。相手を罵倒する言葉ばかりが口をつき、冷静さを失う。一息に罵言してしまうのだ。気付くが、この性分はどうしようもない。それ意外の感情の表現の仕方を知らなかった。僕の悶々とした気持ちに似た、底ごもる模様の昼間であった。何気ない日常の一コマは、ある人への苛立ちに多
うー さん作 [540] -
雨の日の洗車2
<2>この充たされる進行と同じぐらい、無職の一日は速い。職を無くしてからもう10ヶ月が過ぎようとしていた。新聞を広げれば「職員削減」の記事が、紙面の端に書かれていた。目につきにくい位置。しかし何故かそんな文字ばかりが目に入る。仲間が増えるという嬉しさと、他人の不幸を笑う偏屈な感情が僕を支配する。我を顧みたら、笑っていられる状況ではないことはわかっていた。しかし、誰しもそんな気持ちはあるのではない
うー さん作 [548] -
雨の日の洗車
<1>社会が動き出そうとするとき、僕はまだ布団の中にていた。カーテンの隙間からは既に朝日が這入ろうと、その長い両手を永遠と伸ばしていた。意外に熱気を帯びた細い光線は、僕の眠りを邪魔する。眠気と熱気と戦いながら、暫く悶えていたが、次第に不快感を覚え始めた僕は足で大きく布団を蹴り上げた。寝汗で纏わり付く寝巻を四肢を以って無理やり剥がしに係ろうとした。すっと放たれた空間から入ってくる風が気持ちいい。全
うー さん作 [574] -
偽正者(終)
「う、うるさい!生意気言うな!ここは会社だ!会社のやり方に従ってもらう!」翌日、連日の呼称で私は言った。「上司の浅学非才極まる計算力には注意しましょう。ゼロで行こうヨシ!!!」その後、私はこの工場を辞めた。理不尽にもほどがある社会。正しいことを主張しても権力の前では打ち伏せられる。屁理屈が正論を葬り、本当に正しいものはその前では太刀打ちすらできない。そして歪んだ社会が形成されていく。兇漢者が蔓延
トワ さん作 [680] -
偽正者
「重量物の取扱いに注意しましょう。ゼロ災でいこーヨシ!」今日も工員の仕事が始まる。汚い作業着、冷たい安全靴、油まみれの軍手、傷だらけのヘルメット。これらを装着し作業に取り組む。煩く耳にこだます機械音は、もう慣れてしまった。同僚とは上辺だけの付き合いで、会話も適当に賛同しておけばそれで済んだ。しかし、コイツ等激しく馬鹿だ。話すのが疲れる。読書をしていれば普通に覚える単語すらわからない。足し算と掛け
トワ さん作 [635] -
渓谷につぶて?
夜の時間は異常なほどに早く過ぎ、翌朝となった。かじかむ手を固く握り、全身に力をこめ寒さに抵抗する。歩いてほどなく、「世界一の安さに挑戦」「他店のどこよりも安い」「他店より1円でも高かったらご相談下さい」と列挙さるた大段幕が掲げられた大型店が見える。そこが私の仕事場だ。店内はまだ準備中で家電もまだ動きだしていない。それが1時間後にはうってかわって騒撓となるのだ。最初はその差異がたまらなく私をやる気
ゆうた さん作 [442] -
渓谷につぶて?
厚手のジャンパーでも、うそ寒い芯までは暖められまい。冬の夕暮れ、民家から漂う懐かしい匂いに身を委ねながら、輝り始めた自動販売に影を落とした。今は五月蝿い家電の雑音やけたたましい電子化された声もない。殊に民家から流れるテレビの音声は、不調和音のそれとは殊更違い、心地良い。この時間この場所が、一日の中で唯一幸せを味わえるのだ。ただ、幸せと言ってもそれは遠い上に他人のもので、それをこそこそと拝借してる
ゆうた さん作 [474]
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