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天夢 さんの投稿された作品が38件見つかりました。
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僕らは 第八話
甲斐は何事もなかったかのように靴を履き替えながら言った。「オレ、凌駕。お前は?」「貴仁。」他人とこんな風に話すのは、とても久し振りだった。しかも、自分とは正反対な奴と話すなんて…。まだ空は相変わらず、灰色の雲に包まれていた。気付いたら、ある荒れた公園に来ていた。「オレ、よくここで時間潰してんだ。」そう言って、凌駕は錆び付いたブランコに腰掛けた。「誰も来ねぇからさ、この公園。落ち着くんだ。こんなナ
unknown soloist. さん作 [284] -
僕らは 第七話
「あんたさ、こいつが何で遅刻したか知ってるか?」甲斐は顎で僕を指した。僕は訳が分からなかったので、黙って成り行きを見守った。「あぁ?何でだ?」「オレが今朝、こいつに絡んで金を取ったからだよ。」「何!?」「あんたは気の毒な被害者に散々説教喰らわせてたんだ。」ようやく僕は、甲斐が僕をかばおうとしていることを悟った。急いで否定しようとしたが、言葉が何故か喉の奥で詰まってしまった。僕が自分の喉と格闘して
unknown soloist. さん作 [288] -
僕らは 第六話
「おう、来たか。まぁ座れや。」僕は一瞬、躊躇した。最も生徒たちに恐れられている鬼教師、榊原が偉そうに座っていた。しかし、こうなった以上早く済ませて帰りたかったので、僕は榊原の向かいの黒い二人用ソファに腰掛けた。「おい甲斐、お前もさっさと座れ。」その榊原の言葉で、僕は初めて窓の傍に立っている男子生徒に気付いた。彼は振り返ると、少しの間榊原を睨みつけ、僕の隣にどさっと座った。背が高く、手足が長い。顔
unknown soloist. さん作 [282] -
僕らは 第五話
突然鳴り響いたアラームに、僕は現実に引き戻された。繰り返し鳴る機能を止め忘れていたようだ。時計を見ると、急いで家を出なければ学校に間に合わない時間だった。僕は慌ててクロワッサンを口に放り込み、家を飛び出した。遅刻をした生徒は放課後に長い説教を喰らうキャンペーンが実施されていたので、僕は絶対に遅刻をしたくなかった。家を出ると、冬独特の針で肌を刺すような空気がまとわりついてきた。僕は手袋をし忘れたこ
unknown soloist. さん作 [359] -
僕らは 第四話
気付いたら僕は病院のベッドの上だった。警察やら何やらが来て、母さんも風樹もリン太も、そして父さんも死んだと聞かされた。親戚の夫婦が僕を引き取ろうとしたが、僕はその好意を断った。何度も何度も死のうと思った。人生なんて碌なモンじゃない、今すぐ終わらせてしまいたいと思った。しかし、僕は死ねなかった。死ぬ勇気などなかった。このとき初めて、自殺をする人々の決意がどれほど強いかを理解した。それから三年間、僕
unknown soloist. さん作 [326] -
僕らは 第三話
まず目に入ったのは、真っ白だったはずの毛が紅色に染まって床に転がっているリン太の姿だった。その傍らには父さんが向こうを向いて立っていた。「父さん…?」父さんは振り返った。それと同時に、僕は父さんの向こう側に倒れている、母さんのあまりにも無惨に変わり果てた姿と、父さんの手に握られた血の付いた包丁を見た。その瞬間、僕は全てを悟った。父さんの顔は、まるで別の誰かの顔を合成したかのようで、憤怒の形相で僕
unknown soloist. さん作 [341] -
僕らは 第二話
ある雪の夜、父さんは酒に酔い、危なげな足取りで帰ってきた。母さんは心配そうな表情で、どうしたのかと尋ねた。僕はなんとなく自分と風樹の二人部屋に逃げ込んだ。風樹は布団にくるまって眠っていた。そして少し扉を開け、二人のやりとりを聞いた。どうやら父さんの部下が大きな手術ミスをして、酷く責められたらしい。少しして父さんと母さんは口論になった。その声で風樹が目を覚ましてしまったので、僕は心配ないよ、と言っ
unknown soloist. さん作 [337] -
僕らは 第一話
僕は目を開けた。6時45分。アラームが鳴る予定時刻の15分前だった。目覚める前に何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。僕はベッドから降り、カーテンを開けた。灰色の雪雲が世界を包み込んでいて、薄暗い。朝が来たという実感がまるで湧かない。もっとも、僕は常々、朝など二度と来なければ良いと思っているのだが。ぼんやりと、下の通りを歩くサラリーマンを目で追っていると、不意にアラームが鳴った。僕はすぐには
unknown soloist. さん作 [419]