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慰吹 漣 さんの投稿された作品が3件見つかりました。
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夢猫―3
僕を廃墟の中まで誘って、黒猫は消えた。建物の内部は光源などなく、人間の僕にはあまりにも暗すぎた。そのため、当然のことながら黒い胴体の小柄な生き物の姿などすぐにわからなくなってしまったのだ。目的物を失った僕は突然周りの情景が五感に勢い良く流れ込んできた。激しい雨音、わずか差し込むネオンの彩色、生乾きのペンキの匂い、足元にまとわりつく泥水の冷たさ、、魔法が溶けたように、すべてを取り戻した僕はしばらく
慰吹 漣 さん作 [172] -
夢猫
なんだ猫か、驚かせるなよ―\r普通の人ならば、目の前に突如現われたこの獣に対して、そういう反応で胸を撫で下ろすことだろう。だが、僕は違った。正確に言えば「今の」僕は、だ。こともあろう、黒猫でいる僕の前に突然実物が現われたのだから。僕は猫だ。猫も猫だ。二匹は、束の間おそらく遮断しているであろう空気や大量の水の粒たちや雑音や街の霞みが混ざった匂いやその他一切なにも隔てるものはない状態で対峙を試みた―
慰吹 漣 さん作 [245] -
夢猫
―春の豪雨はなま暖かいだけで、決して何も洗い流してはくれない。ぼんやり思考を巡らせ僕は思う。大きくも小さくもない街の、駅前の繁華街。時計は深夜二時を回った遠くの雷鳴が耳を掠めた。―自宅に事務所を構える父親と、主婦兼フラワーアレンジメント講師の母親。二人が仲違いするようになったのはいつの頃からだろうか―\rきっと妹を流産し、従業員が夜逃げし、飲酒トラックが事務所に突っ込む惨事が立て続けに起こった三
慰吹 漣 さん作 [219]
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