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シナドさんの投稿された作品が24件見つかりました。
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マキナ
例えばぼくを苦しめるのは、人生がワーグナーの音楽ほど美しくはないこと存在が水素のように希薄であること思春期の少女のように傷つき易いこと人を愛せないことそれ以上に自分を愛せないことあるいは、愛しすぎていること感情や情緒は避けがたく鋭いぼくにはそれが辛い機械になりたいそう言うとマキナは、あなたおもしろいこと言うのね、と、笑った。マキナは実際にそう思い、感じてるわけじゃない。解答が確定できない入力には、
シナドさん作 [915] -
夢十夜 〜最終夜〜
こんな夢を見た。私は兵隊であった。私は兵隊になどなりたくなかった。しかし時代と社会は兵隊を欲していた。兵隊にならないものは腰抜けと罵られ共同体から除外された。私はやむなく兵隊となった。しかし私は臆病で、勇ましく戦うことなどできなかった。人を傷つけるなど恐ろしくてとてもできなかった。そんな私を皆が笑った。卑下し差別し侮った。私は仕方ないと思った。自分は恥ずべき人間であると。やがて戦争が終わり、私は故
シナドさん作 [705] -
ネツィヴ・メラー
あれから那由多の日々が過ぎわたしは今でも思い出すあなたは彼に仰った振り返ってはならないと彼の地にある何も省みてはならないとでもわたしにとって置いていくにはあまりにも彼の地で生きた時間は長くわたしにはあの悪徳さえ懐かしくその罪悪すら愛おしいああ言いつけを破ります轟音怒号赤と黒熱風が硫黄の臭いを運んでくる翼がはためき御使いが剣を振りおろすああなんてきれいわたしの街そしてわたしはわたしはそしてわたしは此
シナドさん作 [728] -
瞼の裏に咲く花
オリヴィア・ブルシュティンが死んだのは1942年4月4日、彼女の9歳の誕生日、ポーランドでのことだった。自動小銃で3発、背中から撃たれ、弾はそれぞれ脊椎、肝臓、腎臓に当たった。死因は失血死。その直前、彼女は母に手を引かれ林の中を走っていた。怖い人たちがつかまえに来るのだと母は言った。あなたのお父さんを殺した人たちが来るの、と。オリヴィアは母の足についていけず何度も転びかけた。乾いた音がしてすぐ近く
シナドさん作 [717] -
砂漠のマリア <上>
砂漠のマリアを、僕は子供の頃一度だけみたことがあった。彼女は砂漠で行き倒れた男の死体にそっと寄り添っていた。僕には彼女が若いようにも年寄りにも見えた。彼女はくすんだ色のぼろ布を頭から体を包み込むようにまとい、白い顔と、黒く長い巻き毛だけがわずかに見えていた。その姿は、まるで百合の花が咲いているようだった。そしてその眼差しは男にむけられ、とても慈悲深いものに感じられた。美しかった。さながら聖母のよう
シナドさん作 [1,016] -
砂漠のマリア <下>
傭兵をやっている間、僕は何度も死ぬような目にあった。例えば、刃が喉笛をかすめる瞬間、矢が音を立てて耳元を通り過ぎる時。僕は激しく高揚する。死が隣り合わせにある程マリアを近くに感じる。そして敵を蹂躙する時、僕は生者であり勝者であり強者である自身の尊厳に打ち震える。王の気分だ。だがすぐこう思う。マリアがまた遠くへいった。僕は地獄行きだろう。そしてその日は思ったより早くやってきた。隊商を襲った盗賊の1人
シナドさん作 [970] -
海上の道 <下>
私は茫然としながら浜辺まで降りていった。よくよく光の道を見ると、それは道ではなく、さっきのハルのように光を帯びた無数の猫たちが集まって道のように見えているのだとわかった。猫たちは西の方角へと海面を歩いて向かっていた。この光は死んだ猫たちの魂ではあるまいか?そしてこの浜から西方浄土へ向かうのではないだろうか?私はこの世のものとは思えない光景を見てそう思った。ならばハルも、死んでしまったというのか?こ
シナドさん作 [804] -
海上の道 <上>
潮騒に混じる呼び声で目が覚めた。「旦那さま、旦那さま…」まだ夜が明けぬ暗闇の中、目を凝らして声の主を見極めると、一ヶ月前から行方がわからなくなっていた飼い猫のハルが枕元にいた。「起きてくださいまし」そのハルが口を利いている。私は一瞬、行方のしれぬ老猫を心配し続けたせいでおかしな夢を見ているのかと思った。しかし肌を切るようなニ月の寒さはまさしく現実のものであるように感じられた。「旦那さま、お別れの挨
シナドさん作 [613] -
混沌の息子
とっておきの質草がかかった賭けの最後の最後にへまをしたまたもや道化の役まわりだだが賽が振られるその時には俺は必ず勝利するぞ嫉妬深い老人はやがて死にここには俺とおまえらしか残らないそして永久なる女は醜悪の極みを見せつける大淫婦となるそれこそ俺の悲願であり大望だ老人がいくら手をこまねようと俺は必ず成し遂げるぞ老人の愛い子どもをひとり残らず凋落させてやるさあ俺に見せてくれおまえたちの火を見せてくれ陰府も
シナドさん作 [709] -
夢十夜 〜第九夜〜
こんな夢を見た。森の中で私は小川を眺めている。川は50cmばかりの深さで恐ろしく澄んでいた。川底の丸い石ころの表面にに水面を通って射し込む光がゆらゆらと揺れている。水面には鮮やかな色合いの花がいくつもいくつも浮かんでいて、くるくると水の流れに翻弄され浮き沈みしながら私の目の前を通っていく。赤、桃、橙、黄、青。花の色は実に様々であった。対岸を見るとに川に足を浸した子供が数人いた。それを見て私も水に
シナド さん作 [684]