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ベンジー さんの投稿された作品が93件見つかりました。
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上弦の月 矢を放つ
九十九里の山道の途中、疲れ果て、膝をつき、空を仰ぐ。掌に落つる雨粒を一粒、一粒数えてみれど、次第に幾千の天涙と化す。頬を伝う涙も、時雨と混ざりて、塵に同じ。さあ、立ち上がれ。背中にのしかかる要らぬ尊厳など跡形もなく拭い去って。そして泣き濡れた雲を貫く程の、盛大なる騒き唄を。したらば、雲の向こうの上弦の月は、きっとお前に光の矢を放つから、その時、胸に突き刺さる痛みと眩しさをお前は越えてゆけ。
ブランキー さん作 [385] -
涙が出ない?
その翌日、男はあまり眠れないまま朝を迎えた。目は覚めていたが、ベッドの上で、目をつむったまま何も考えず、ボーッとしていた。しばらくして立ち上がり、顔を洗って、歯を磨こうと思ったのだが、歯みがき粉が切れていた。どうせもう必要ないし、今日は我慢しよう。そう思っていたが、やはり口の中がざらざらしていて、気分が良くないので近くの薬局に買いに行った。家に戻り、すぐに歯を磨く。歯を磨いている途中、熱帯魚に餌
ブランキー さん作 [367] -
涙が出ない?
男は一ヶ月前、春香という女に呼び出された。二人は近くのファミレスに立ち寄り、入り口とは最も遠い奥の方の席に座った。男はアイスコーヒーを頼み、女はホットココアを注文した。「いよいよ明日ね。ねえ、ユキオ。何時決行にする?」「そうだな。暗い方がいいんじゃないか?誰にも邪魔されないだろうし。」男は適当に返事した。「だめよ。それじゃあ崖の上から飛び降りた景色が見えないじゃない。」女は息をつく間もなく、返答
ブランキー さん作 [350] -
涙が出ない?
男は帰宅して、マンションの鍵を締め、冷蔵庫の上段を開け、熱帯魚用の餌を取り出して水槽に三回放り投げた。餌に魚が群がった。その中でも一番小さな魚は、餌を食らう大きな魚に外へ追いやられ、なかなか餌にありつけずにいた。男は煩わしそうに餌をもう一回投げ入れたが、また大きな魚に全て食べられてしまった。男は何も言わずに、餌を冷蔵庫に閉まい、そのまま洗面所へと向かった。崖の下には大海が広がっていて、その潮風を
ブランキー さん作 [384] -
犬畜生
ネオン管から滲み出た灯りに群がる野犬共。帰る家などありはしない。餌をくれれば、簡単に誰にでもついて行く。一日でも長く生きれたなら幸福なのかい?一日でも早く死ねたなら幸福なのかい?どちらにしても善い人生がなさそうだ。おっと、俺は餌をあげやしないぜ。
ブランキー さん作 [421] -
鼓動
生きながら、俺たちきっと生まれ変われるよ。うなだれて、涙を流した夜もあった。傷を舐める夜もあった。でも今、気付いたんだ。空さえ涙を流すことを。雷鳴が止まった鼓動を鳴らしたら、それは生まれ変わる合図だ。さあ、生命の誇示を。
ブランキー さん作 [388] -
悪魔の姿
知っているか。戦争の神なんてのがいるんだと。全く笑っちまう話だよ。人が死んで喜ぶ神様なのだから。戦争の神がいるのなら、人を殺した奴も、きっと寵愛を受けるだろう。そんな馬鹿馬鹿しい話があってたまるか。きっとそいつは長い牙と背中には黒い翼が生えているだろう。それはまるで、人間が描いた悪魔みたいに。
ブランキー さん作 [408] -
涙が出ない。?
冬の寒空。風は荒々しく断続的に吹いていた。断崖の淵に小さな石が沢山積んであった。なんとも乏しい墓である。石の山は崩れていて、墓の原型を全くとどめていない。その近くの、死んだ者へ手向けられた白い菊はすっかり色褪せたまま地面に包装しないで置いてあった。風に飛ばされないように重石が乗っている。そこに一人の無精髭を生やした男が立ち寄った。髪は乱れている。風の所為ではない。「この背中に白い羽根が生えたなら
ブランキー さん作 [442] -
悲しいメロディ
眠れぬ夜の静寂を切り裂くために、エレキギターを掻き鳴らした。どんなに真似をしても本物にはなれないのに、ただヘッドホンから漏れだした音に耳を傾けて真似をした。暴れるのに意味はいらなかった。ただ虚しい夜をかき消してくれれば。曲と曲の間の無音さえもが憎らしいのに…なあロックスターよ。そんな悲しいメロディを弾かないでくれよ。
ブランキー さん作 [393] -
希望の光
フィナーレは再生を繰り返す。そして、凍てつく心に流れる死神の笑い声。それを振り払うには、まだ光が足りない。少し濁った光の方なら、この心にも届きそうだ。今もまだフィナーレは鳴り止まない。それでも、少しは太陽に近付けた気がした。
ブランキー さん作 [355]