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その他の携帯小説に含まれる記事が2136件見つかりました。
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花の調べ 9
「あの〜っ、お客さま。……こんな事を申し上げるのは何ですけど…」知恵の輪を解くように、必死になって、重いグランドピアノを我が家のリビングまでねじ込んでくれた運送屋さん。「次は家を取り壊す時にして下さい」と頭まで下げられてしまった。僕と薫は冷たい飲み物と汗拭きのタオル、それから、ねぎらいの言葉をすみやかに提供した。「ふぅーっ、やっと人心地がついたって感じか」「ふふっ♪」「なんだよ、やけに楽しそうだ
朝倉令 さん作 [673] -
桜の季節に…
翌朝、真田はある場所へ剛と一緒に向かっていた。……母親「こまります!いくら真田さんだといっても、剛を外へつれていくことは許可できません!剛は絶対安静なんです!」真田は剛の母親を説得するように、そして昨夜の気持ちの整理をつけるように剛の母親にこう言った。「僕は今まで「自分」という存在を肯定するために野球をしてきました。タイトルを取れたのも…いやタイトルを取った執念とでもいうのでしょうか。それも全て
輝きながら… さん作 [533] -
花の調べ 8
「私は当家の主(あるじ)小村壮吉と申します」「いや、……勝手に上がり込んでしまいまして、何ともはや…」「その事は別に宜しいんですよ。ただ、お名前をまだ伺ってなかったもので」「あ、はい、私、小田嶋裕一と申します。 これは家内です」咲季から『老人ホームに行った』と聞かされていたご本人は、かくしゃくとしており、旧家の当主らしく品のある人物であった。『壮吉、おだじまさんをいじめちゃダメでしょ?』「いやい
朝倉令 さん作 [559] -
花の調べ 7
「すごいすご〜い! まるで指に魔法がかかったみたいだわ!」『うふふっ♪ お姉さんがもともと上手だからよ』今夜の曲は【子犬のワルツ】だ。とっても可愛らしいアップテンポな曲に合わせ、猫たちが声を立てずに『にゃーっ』と鳴く様な仕草をする。すっかり打ち解けた僕達に、咲季は新しいお遊びを始めていた。そもそも小村咲季は〈幽霊〉なのである。「それじゃ、取り憑く事できるのかしら?」「いや、取り憑くってお前なぁ…
朝倉令 さん作 [536] -
花の調べ 6
僕が先日、咲季に教えた二十四歳という年令は、(実の所)かなりサバをよんだものである。妻の薫もその「大ウソ」に吹き出していたが、次に花の館を訪れた時、僕の呼び方が改まっていた。『あ、お兄さんお姉さん』「あはは、有難う。冗談だったのに信じてくれて」「うふふっ、本当は、 …ナイショにしとくわね」少女の幽霊は、いつもの様に猫たち相手にピアノを弾いていたところだ。僕と薫の笑顔に、二コッとほほ笑みを返してき
朝倉令 さん作 [551] -
花の調べ 5
月の光を浴びたベランダから見える幽霊の少女。今演奏中の【アンダンテ・スピアナートと華麗なポロネーズ】は、水晶の輝きにもたとえられそうな、きらびやかな音色から織りなされる。まるで音が微細な光の結晶となって、さんさんと降り注いでいるかの様だ。「はぁ……凄いわねぇ」音大出身の薫が、感じ入ったようにため息をつく。彼女は一旦、目を閉じて考え込むような表情をした後、自らに問い掛けるように喋り始めた。
朝倉令 さん作 [530] -
桜の季節に…
…その夜、いつも通りにバットが闇を切る音が真田の家の庭からもれていた。ただ、いつもとは違う速さで。「ブン!ブン!ブン!」(くそっ…俺はなんてことを…野球選手のあるべきすがたとは人に夢や希望を与えることじゃないのかっ!)真田は自分のふがなさを責めるようにバットを振った。「ブン!ブン!ブン!…」バットが闇を切る。まるでそれは自分の心を切っている。そのように真田には感じられた。(…それなのに最近の俺は
輝きながら… さん作 [558] -
花の調べ 4
「今晩は。 お二人仲良く散歩ですね?」人の善さそうなお婆ちゃんがニコニコしながら声を掛けてきた。「どうも、今晩は〜。この近くにお花の綺麗なお屋敷があるって聞いたものですから。それに、いいお月さまですもの」「お花?…… ああ、小村さんのお館ですね。あそこの旦那さまは花好きでしたから…」そう言ったお婆ちゃんは、皺の多い顔に少々複雑な色合いを浮かべていた。それに目ざとく気づいた薫は、何気ない風を装って
朝倉令 さん作 [578] -
桜の季節に…
剛の病室をでたあと、真田は廊下で悲しそうな表情で…やるせない表情で自分を見つめている女性にきずいた。その女性は剛の母親だったのだ。母親「真田さん今日はありがとうございました。でも、ただ…」真田「ただ…なんですか?」真田はその途切れた言葉をつなぐものを求めた。母親「剛は…剛は…あと一年しかいきられないんです!だから、真田さんが活躍して、会うことをたのしみにしてた…でもあのこ…」(剛「えっ、真田先輩
輝きながら… さん作 [478] -
花の調べ
「お帰りなさい。 ……あら、今日はどうしたの?ネロと一緒だなんて」黒猫を腕に抱えて戻った僕を、妻の薫がもの珍しそうな顔で見ていた。ネロはもともと僕の飼い猫だったのだが、今はどちらかと言うと薫の方に懐いているためだ。そもそも猫にとってご主人様とは『餌を与えてくれる人物』と同義語?………まぁ、僕のそんな些細な疑問を知る由もなく、こいつはゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らしているのだけど。「……あなた
朝倉令 さん作 [629]