枯れたサボテン
高校を卒業して直ぐだった。
特に夢がある訳でも無いのに、とりあえず実家を出て、一人暮らしを始めた。
インターホンは既に壊れて鳴らない。
とりあえずトイレと風呂と台所はある。
家主はドアの前でそんな説明を適当に済ませ、「じゃあ中河さん、一人暮らし頑張って」と愛想良く言い残してさっさと帰ってしまった。
まぁ分からない事は後で聞けば良いか。と言うノリで念願のマイホームに鍵を入れた。
四月になると言うのにまだ冬の余韻を残した今日この頃。
外よりは温かいだろうと期待して部屋に入ると…
「…いや、普通にさみーな…」
何も無い性か部屋は無駄に寒い…
「お邪魔しまーす」何て一人で言って見たりしつつ、畳みの臭いがなかなか心地良い新居に足を踏み入れる。
とりあえず自由を手に入れると言う喜びから調子に乗って荷物を洋服と携帯しかもって来なかった為に、洋服が詰まったバックを隅に落とした時点で引っ越しは全て完了した。
窓は大き目のが一つに台所の小窓が一つ。
トイレは一応洋式らしい。トイレが洋式なのはなかなか良いサプライズだ。
「さてと…」
最後に目に入ったのは押し入れだ。
小さい頃から若干夢を抱いていた事…
「一度やって見たかったんだよなぁ…」と押し入れの襖に手をかける。
中は以外と温かく、身長176?の体が膝を延ばせる広さは有った。
「ドラえもんの野郎…なかなか良い所に寝てるじゃん」
これが長年の夢と言うか、一人暮らしの小さな楽しみだった。
程好い暗さと木の匂いにうとうとしつつ、いっそ今日はこのまま寝てしまおうかと迷っていると、突然ポケットに有った携帯が慌ただしく振動した。
「もしもし、あぁ、うん」
電話の相手は葵だった。
もちろん、ガールフレンドだ。
世の中の彼女がいない男達にこの素晴らしさを教えて上げたい程パーフェクトな女性な訳だ。
もっとも、人間好きになったらその異性の全てがパーフェクトに感じるものなのだ。
真っ暗な押し入れの中、外の時間を忘れて話し続けた。
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