航宙機動部隊26
『御心配召されるな』 胸中に巣食った深い悩みに、密かに懊悩を強いられ出した皇帝に、現帝国大本営・事実上の主は、そう言って力付けた。 『大兵を催し、性能が優っている事が勝敗を決する訳では有りません。寧ろ傲りや油断の遠因にすら成ります。いざ実戦になれば、最終的には、どこまで闘えるか、どれだけの出血に堪えられるかに、全てが集約されます。その為には、指揮系統の効率性と、敢闘精神・兵員の技量が物を言います。これ等全ての点で、我が軍は敵を大きく上回っているのです』 スコットの言葉は、自信に満ちた物だった。それは確かに過剰修辞等ではない。充分な根拠が担保になっていた。 血で血を洗う、未開野蛮な暗黒宙域を舞台に、彼等は、群狼達を撃ち破り、魑魅魍魎共を陥れ、叛服常なき海千山千の手練を切り従えて来た。 支払った労苦と代償・蓄積した経験と教訓の数々は、常識と人道が支配する銀河中央域では、とても得れない物ばかり。 統合宇宙軍が、この難局に当たって、少しも動じないのも、乱れないのも、それだけの深い底支えを、裏付けを有しているからだった。 『そして我等には―陛下がおわす』 大本営次長は、再び居住まいを正してそう口にすると、敬愛すべき玉体の後姿に恭しく一礼した。 帝国の君主にして、統合宇宙軍の大元帥。最外縁《タルタロス》全域に霸権を及ぼし、四千万将兵に号令を下し、五0億星民を恩徳によって統べる。 エタン自信が、今だにしばしば、衝撃を受けるのだ。 頭では充分理解している筈なのに、直面する日々の感触に、認識が不覚をとる場合から中々解放されない。 少なく共この世界に置いて、皇帝とは居ながらにして、全軍の熱狂的な崇拝と忠誠の対象であり、生命に代えても惜しくはない、至高にして絶対の、精神的基盤なのだ。 彼等部下達は、これを失う位なら、喜んで死を選ぶだろう。 そして、最後の一人まで戦うだろう。 地球時代の一神教徒が、かつてそう振る舞った様に。 どれだけ奇異でも理不尽でも、これ程までに人々の献身的な無償の力を集めれる信仰は、中央域にはなかった。
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