彼方
「お前も、もうすぐ卒業だな。」五つ上の兄貴がしみじみと言った。「まあね。」僕はコーヒーを片手に答えた。「なんか…複雑な気分だな…。」「別に兄貴が卒業するわけじゃないだろ。」僕は思わず笑ってしまった。兄貴の言い方が本当に淋しそうだったからだ。そう、僕は来週高校を卒業する。 柳沢優太 18歳 父と兄と3人で暮らしてる。美術部。誤解がないように言っておくが、運動が嫌いなわけではない。単純に絵を書くことがすきなのだ。その証拠というのもあれだが、東京の美大に進学する。父は普通の会社員、母は僕が小さい頃に死んだ。元々、体が弱く、肺炎だかなんだかで本当にあっけなく居なくなってしまったらしい…。だから、僕には母の記憶というものがほとんどない。母の代わりは兄だった。僕が中学に上がると、僕がこの家の主婦になった。面倒臭いと思った事もあったけど、それなりに頑張れた。 …話はそれてしまったが、僕は来週卒業する。―「終わったね。卒業式。」彼女が窓の外を見ながら言った。夕陽が彼女の横顔を包んでいた。外にはまだ、記念撮影を続けている同級生達がいる。彼女が僕に向き直った。机の上に座ってゆっくり僕を見つめる。彼女の瞳は濡れていた。「…本当に離れちゃうんだね。」彼女の瞳から涙がこぼれる。「遥…」僕はそっと呟いた。綺麗だ…。と思った。惚気でも欲目でもなく、本気で。彼女と付き合って2年になるが、彼女がこんな泣き方をするのを知らなかった。というより彼女の泣き顔を見たのは今日が初めてだった。「大丈夫だよ。いくらでもこっちに戻ってくるから。」僕は小さい子をあやすように彼女の背中をポンポンと軽く叩きながら囁いた。―僕らはゆっくりキスをした。
一年生の終わり、僕は彼女に告白された。それまではただのクラスメイトだった彼女が、急に一人の女の子になった。綺麗な髪の明るい女の子。いつも僕を真っ直ぐ見つめる。それは告白している時も変わらなかった。その日から、僕らは同じ時間を過ごした。初めてのデート、初めてのキス、ケンカ…いろんな事を経験した。いろんな事を共有した。そして、これからも同じ時間を過ごし、いろんな物を共有していくのだろうと思っていた…。 僕らは純粋に信じていた。変わらずに一緒に居られると。離れても、何も変わらないと…。ただ純粋に信じていた。
一年生の終わり、僕は彼女に告白された。それまではただのクラスメイトだった彼女が、急に一人の女の子になった。綺麗な髪の明るい女の子。いつも僕を真っ直ぐ見つめる。それは告白している時も変わらなかった。その日から、僕らは同じ時間を過ごした。初めてのデート、初めてのキス、ケンカ…いろんな事を経験した。いろんな事を共有した。そして、これからも同じ時間を過ごし、いろんな物を共有していくのだろうと思っていた…。 僕らは純粋に信じていた。変わらずに一緒に居られると。離れても、何も変わらないと…。ただ純粋に信じていた。
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