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万華鏡(12話)

[337]  飛水  2006-12-09投稿
11月に入り、少し肌寒くなってきた。
今、ホームの最後尾に私はいる。

踏切音が聞こえてきた。
見慣れた白い箱がこちらに向かって来た。

‥っとそのとき、聞き慣れた声が横からした。
「よっ!」

‥凌だ。

扉が開く。
凌はスタスタと車内へ入っていく。私もその後を慌てて追った。
扉が閉まる。電車が動きだした。

凌は扉にもたれ、窓の外をじっと見始めた。
私はどうしたらいいか分からず、少し擦れた彼のローファーをただ見ていた。


駅に着いた。
彼は真っ黒のマフラーを巻き直し、一人歩き出す。

私は彼の一歩後ろを歩く。

‥距離を、感じた。



駅周辺の賑やかさがなくなり、次第に周りが淋しげな場所に入ったところで、凌は立ち止まった。


「ごめんな、あのとき」
凌は後ろを振り返る。

私は俯きながら横に首をふった。

「‥瞬、‥癌だって」

私は凌をみた。
彼は静かに目をおとした。

「‥もう長くない‥‥」

「ばかだよな、あいつ」
どこか遠くの方をみながら凌は話す。

『‥‥‥。』
頭が真っ白になるってこういうことだと思った。

「‥‥まぁ、大丈夫だからさ!今度見舞い、来てくれよなっ」

『‥うん。』

そしてまた歩き出した。


‥私の気持ちは
まだ止まったままだった。

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