愛された記憶 4
葬儀も終え、親戚も一人づつ帰って行った。そして私は母が家出したことを思い出した…と同時に、祖母を亡くし泣き続け自分が、空っぽになっている事にも気がついた。疲れていた。人を気遣う余裕など、これっぽっちも残っていなかった。一度に降り懸かった二つの災難に、私の小さな胸は押し潰され笑う事を忘れかけていた。久しぶりに登校すると二日後の修学旅行の打ち合わせで盛り上がっていた。行きたくなかった。こんな状態で、みんなと旅行なんて…父に「行きたくない!」と言った。当日の朝まで、どうしたら行かずに済むか考えていたのだが何も思いつかずに、みんなと同じバスに乗っていた。どこへ行っても、何を見ても溢れそうになる涙を堪えるのが精一杯だった。みんなが寝付いた後、ぎゅうぎゅうに詰め込んだ涙が、一気に溢れ出し、布団の中へ潜り込んだ。誰にも気付かれないように…こんな事を繰り返すうちに、私は自分が壊れて行くような気がしていた。家に帰ると、父さんが「どうだったの〜?」と駆け寄って来た。「楽しかったよ。」と笑って見せた。この時、私は嘘をつくことを覚えた…それから私は、いじめにあう。集団無視だ…私には、どうでもよかった。だから、学校へも休まず通った。動じない事に腹を立てたのか、水飲み場で口に含んだ水を私の頭に吐き出した人もいた。上履きが泥だらけになったことも、私の分だけ給食が足りない日も有った。持って来た宿題のプリントが無くなった時、みんなと一緒に「宿題も出来ないなら学校来なくていいっ!」と先生が怒鳴った。みんなの笑い声を聞きながら先生の顔、醜い…と思った。数日後、祖母が大事に育てたサボテンが、大輪の花を咲かせ、父さんが「ばぁちゃんにも見せたかったね〜」と写真を撮った。私は嬉しくなった。祖母が亡くなった今でも、祖母の思いが育っていて、優しく見守り続けてくれる気がした。次の休日に、父さんと朝食を作り最初に仏壇にお供えし、手を合わせ台所へ戻った。しばらく待っても父さんが戻って来ないので様子を伺うと、仏壇に向かい、手を合わせたまま静かに涙を流していた。とても綺麗な涙だった…私は自分の弱さに気付かされた…今まで、悲しくて寂しくて、私だけ辛いような気分になっていた。思えば、祖母が亡くなった後、父さんは涙を見せ無かった。父さんも空っぽになっていたのだろう…私は自分の事ばかり考えていた事を恥ずかしく思った。
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