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航宙機動部隊32

[577]  まっかつ  2006-12-13投稿
そして六年を閲し、今やエタンは、手足たる大本営スタッフ建に囲まれて、統治者として安定した実績を残し、帝国の拡大に力を尽している。
親征も今まで三度経験した。
最も既に、富国強兵と機構整備を果たした後の統合宇宙軍だ。
エタンはただ《スタニドルフ》に座乗して、分厚い大艦列に守られて布陣し、その砲火が肉眼では確認出来ない程、距離を隔てた前線から、時々上がって来る報告を決裁するのが中心だったから、物理的危険に晒される心配とは無縁だった。
実を言えば、余り多忙ですらなかった。
戦闘は、修羅場と鬼界を庭代わりに往来して来た各軍司令官、実務は一人一0役はこなす異才鬼才揃いで、代償的にそれに劣らず奇人変人じみた幕僚集団が、手当たり次第の貪欲な消化振りで片付けてしまうし、それ以上の課題は、大本営三長で処理してしまう。
結果皇帝のするべき仕事は―と言うよりそれ位しか残されていないとの見方も成立するのだが―正しく全軍の顔に極限される。
降服勧告や戦没者慰霊、慶賀祝典の主宰や兵士達への激励、星民の宣撫。
ある意味この種の『地味』な仕事が、四世皇帝の得意分野となってしまった。
しかし、逆説的に、重視すべき業務でもあったのだ。
旧来の純粋な武人タイプでは軍隊に留まらないこう言った側面を果たすのは、限界を迎えていたのは事実だったからだ。
中ば押し付けられた祭司役をエタンは実に忠実にこなし、この点不可欠の存在にはなっていた。
彼がどうして、自ら最外縁の主として祭りあげられる事を選んだのか、真相は今だもって不明である。
現時点で解っているのは、仲間内の強制や詐欺は一切無かったと言う事だ。
彼等十六人は、全員が帝国に残り、公社の救出を待つと言う結論を下していたからだ。 一人のエリートをして、何がこの暴挙に走らせたのか。
野心か、使命感か、自己犠牲か、中央域への失望か、それとも―自分でも名状し難いある種の衝動に突き動かされたのだろうか。
本人は、それについて、敵にも味方にも多くは語らない。
航宙史上屈指の、それはミステリ―となっていた。

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