愛された記憶 6
急な環境の変化にも、何とか馴染んで行くもので私は又、新しいリズムを作り始めていた。同じクラスの芳美。おとなびた横顔に時折見せる寂し気な表情。私は興味を持たずにいられなかった。私の通学路に住んでいる芳美と毎朝待ち合わせて一緒に登校した。もちろん校内でも下校後も、いつも一緒だった。芳美は私と同じで両親が離婚し、親戚の家に預けられているという…芳美の夢は芸能人になる事だと目を輝かせ話してくれた。最後は必ず、親戚に預けたまま迎えに来ない親への不満を言い合い笑った。いつも時間を忘れて話していた。毎朝二人でジョギングをして、いつの間にか、おしゃべり大会に変わっていることも多かった。私は芳美に支えられた。爆発寸前だった私をいつも勇気づけてくれた。親への不満を言い合いながら、二人で泣き笑いすると、本当にすっ〜とした。芳美に会えて本当に良かった。ここへ来て半年が過ぎようとしていたある日、音信不通の父さんが、突然姿を現した。無事で良かった…が!突然、引越し先へ移動すると言うのだ。父さんお得意の、突然…!だ。私は絶対に嫌だった。やっと始まったのに…芳美と一緒に居たいのに…父さんは勝手だ!私は逃走した。夢中で走った…呆れた父さんが、私を置いて行けばいい…と思ったが律義に信号待ちをしている間に捕まってしまった。「お願い!私を置いてって〜おばちゃんに頼んでよ〜。それが無理なら、施設に入れて〜」と本気で父さんに訴えた。「そんなこと言わないでよ〜。」と、父さんは困った顔をしていた。私にとっては、一人になる事より、芳美と離れる事の方が辛い。私が何をしたって言うの?神様、助けて…大人の都合で振り回わさないで!子供だから言う通りにしなきゃいけないのなら、早く大人になりたいと思った。芳美に、さようならなんて言えるはずが無い…会わずに行こうと決めた。学校へ私物を取りに行った帰り道、バッタリ芳美に会ってしまった。私はビクッとして固まった。「どうしたの?こんな時間に学校で何してたの?」と芳美が荷物を覗き込む。「なんでも無いよ。」と、その場を立ち去った。芳美は、いつまでも私を見ていた。叔母の家に帰ると、父さんが荷物を車に積んでいた。人の気も知らないで…と私は溜息をつく。「さっち〜」と呼ぶ声に振り向くと、芳美がいた。芳美に嘘は通用しないらしい…頭の良い芳美は一瞬で察したのだろう大粒の涙を溜め立ち尽くしていた。
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