赤の帝王
ゆらゆら…ゆらゆら…
景色の遠くで赤い色が揺らめいている。
ゆらゆら…ゆらゆら…
赤い色の中に、昏く人影が映し出された。
髪が強い風に流されて波打っている。女だ。
ゆらゆら…ゆらゆら…
「哀れな…。お前はもう神などではないのだぞ…なぁ、分からないか…?」
赤く揺らめく色が勢いを増す。
そう、あれは炎だ。
女は炎の中で俯く。
「…深い海の底で、共に眠ろう…」
ゆらゆら…ゆらゆら…
風に散っていく炎はまるで真っ赤な花びら。
やがて景色は花びらに覆いつくされていく。女の影も、どこかに消えた。
視界は突然、闇色に染まる。
「…ねぇあなた、この子傷だらけだわ…」
「大丈夫。どれも浅い傷だ。…それにしても、右腕右足が鋼製とは…」
女と男の声がする。
「きっと事故か何かに遭って失ってしまったのよ…ご両親も心配なさっているでしょうし、早くお家を探してあげなくちゃ」
「そうだな。これだけ特徴があればどこの村の子かすぐに分かるだろう。それまでにしっかり傷を治してやらなきゃな」
「ええ」
ゆっくり瞼を持ち上げると、白く眩しい光が洪水の様に押し寄せてきた。思わず両手で目を覆うと、全身が鈍く痛んだ。
「あら」
女が気付く。
「目が覚めたのね。あまり急に身体を動かしては駄目よ。あなた傷だらけで林に倒れていたの。私はローサ、あなたのお名前は?」
ローサと名乗った女は、春の日だまりの様な暖かい笑顔で話し掛けてきたが、その後どんなに時間が経っても俺は、自分の名を思い出すことができなかった。−−−あれから9年。
鋼の義手と義足、紅の髪と目という実に特徴的な外見にも拘わらず俺の肉親は見つかることなく、俺は記憶を失ったまま”ゼロ”という名をもらい、ローサとカダ夫妻に育てられた。
俺は、17の歳になった。
景色の遠くで赤い色が揺らめいている。
ゆらゆら…ゆらゆら…
赤い色の中に、昏く人影が映し出された。
髪が強い風に流されて波打っている。女だ。
ゆらゆら…ゆらゆら…
「哀れな…。お前はもう神などではないのだぞ…なぁ、分からないか…?」
赤く揺らめく色が勢いを増す。
そう、あれは炎だ。
女は炎の中で俯く。
「…深い海の底で、共に眠ろう…」
ゆらゆら…ゆらゆら…
風に散っていく炎はまるで真っ赤な花びら。
やがて景色は花びらに覆いつくされていく。女の影も、どこかに消えた。
視界は突然、闇色に染まる。
「…ねぇあなた、この子傷だらけだわ…」
「大丈夫。どれも浅い傷だ。…それにしても、右腕右足が鋼製とは…」
女と男の声がする。
「きっと事故か何かに遭って失ってしまったのよ…ご両親も心配なさっているでしょうし、早くお家を探してあげなくちゃ」
「そうだな。これだけ特徴があればどこの村の子かすぐに分かるだろう。それまでにしっかり傷を治してやらなきゃな」
「ええ」
ゆっくり瞼を持ち上げると、白く眩しい光が洪水の様に押し寄せてきた。思わず両手で目を覆うと、全身が鈍く痛んだ。
「あら」
女が気付く。
「目が覚めたのね。あまり急に身体を動かしては駄目よ。あなた傷だらけで林に倒れていたの。私はローサ、あなたのお名前は?」
ローサと名乗った女は、春の日だまりの様な暖かい笑顔で話し掛けてきたが、その後どんなに時間が経っても俺は、自分の名を思い出すことができなかった。−−−あれから9年。
鋼の義手と義足、紅の髪と目という実に特徴的な外見にも拘わらず俺の肉親は見つかることなく、俺は記憶を失ったまま”ゼロ”という名をもらい、ローサとカダ夫妻に育てられた。
俺は、17の歳になった。
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