永遠(とわ)の夢・最終話
「それじゃまた、次回の講義でね」
「えーっ、時々遊びに来たらダメですかぁ?」
「千尋、我儘言うなよ。
彼女ふだんは夜の仕事なんだから。昼間寝なけりゃならないだろう?」
「あ、そうね…」
「私は大歓迎よ。
お肌の曲がり角もとっくの昔に過ぎてる事だしね」
「まあ、…うふっ♪」
葛城静と大沢千尋は、実の姉妹のように打ち解けていた。
でも、もし二人に全く面識が無かったら……。
想像するだけで身の毛がよだつ『修羅場』が繰り広げられたに相違ない。
「剣崎、先日は本当に済まなかった。
この通り、謝る」
僕が詫びながら頭を下げると、剣崎均(ひとし)はひどくバツの悪そうな顔を見せた。
「まあ、…お互い様だ。
それにしても、お前なかなかやるなあ。 まさかKOされるとは思わなかったぜ」
左目のあたりに痣をこしらえた剣崎は、僕の胸を軽く小突き、笑った。
幾世代にも亘り、転生を重ねてきた僕と静。
記憶さえ風化しなければ悠久の時を生き続けているようなものである。
が、多少の不満がある。
それは、天寿を全うする事がないと云う点だ。
鎌倉時代のあたりには『人魚を食べた者』として糾弾され、村人達によって殺された。
次にはっきりと覚えているのは、大飢饉で二人揃って餓死した事。
多分、江戸時代半ばであろう頃には、人妻であった静との密会の現場に踏み込まれ、その夫に有無を言わさず斬り捨てられた。
大正の頃は云わずと知れた大地震の被災、…という具合に非業の死に見舞われ続けている。
(もしかすると、人魚の呪いなのか?)
そんな思いが脳裏を掠め去る中、夢で逢瀬を重ねる我々は、互いの温もりにいっときの安らぎを得ていた。
永遠に続く夢の中では……
完
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