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笑う犬の歌

[492]  2006-12-18投稿
 
 3月。卒業式。

 今まで思いを寄せた人への書き綴った手紙を開き、内容の最終確認をする。
 今は卒業式の卒業証書授与の最中だ。
 もうすぐ、アタシの番。

 「女子20番。佐藤水奈」

 「…はい!」

 堂々と、少し遅れてから返事をした。手紙をポケットの中にしまうと、立ち上がる。

 まだ先の未来なんて分からなかった。

 春の日差しが体育館の窓に反射する。
 眩しくて目がくらんだ。

 一歩一歩、教壇までの道のりが長く感じた。
 
 「卒業、おめでとう」

 校長が小声で言った。証書を受けとって振り返った瞬間、

 目があった。
 慌ててアタシは目を逸らす。相手も逸らした。それが、なんかすごく寂しかった。
 

 「水奈〜、元気でいろよ〜」
 涙で顔がグシャグシャの佳織が抱きついてきた。親友の佳織とも、中卒でお別れ。
 行く高校が違うのだ。
 「別に会えない訳じゃないのに…」
 アタシは苦笑いを浮かべて言った。しかし、佳織の涙は止まらない。
 それもそうか…。佳織、昨日彼氏にふられたんだもんね。
 佳織の痛みがなんとなく分かる。アタシもこの手紙送ったら傷つくのかな?
 水奈はポケットの中の手紙を握り締める。

 やっぱり、春の太陽だよな…。
 何だか、中学校生活の3年間が短かった気がする。3年前と同じ太陽。同じ感じ。

 寂しい。寂しすぎるよ。

 
 卒業式が終わると、アタシは彼を呼びだした。そして、手紙を差し出す。
 「…ラブレター?」
 「最初で最後の手紙」
 彼の問いにアタシは答えた。彼は手紙を受け取ると、その場で開かず、
 「ありがとよ」
 そう言って行ってしまった。

 ホントは行かないでほしかった。その場で返事がほしかった。
 でも、あの頃は言える勇気なんて無かったんだ。


 それから、3年が経った。

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