まっくらくらい、くらい
それは、彼が床に落としたスプーンを拾おうと、椅子に座ったまま体を曲げた時のことだった。
急に視界が真っ暗になった。けれどそれはいつもの眩暈のように思えた。
彼はスプーンをそのままに、体を起こした。目を閉じて眉間を揉む。そして再び目を開けてみた。
何も見えなかった。
彼は、飼っている犬の名前を呼ぼうとした。
そこで、口がきけなくなっていることに気がついた。
まさかと思い耳を澄ませてみる。
音が何も聞こえなかった。
目の前に置かれているスープの匂いもしなくなった。
やがて、椅子に座っているという感覚も無くなっていった。
そうして彼は、意識だけになった。
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