英雄不在
勇者は未だ姿を見せない。今、俺の眼前にはこの国を蹂躙しようとロイの国の王、デスガムの片腕、ダークエルフのヴェリス将軍が妻のセルに剣を向けている。いくつもの国を戦火に包み、冷徹に女子供の区別なく命を奪う者達がこの村にもその手を伸ばしてきたのだ。しかも、よりにもよってライトニングジェネラルの称号を持つ将軍が俺たちの前に立ちはだかったのだ。微笑む端麗な顔が逆に奴の残虐さを倍増させる。この危機に村に伝わる勇者は百年に一度の連の月にしか現れないと言う。抗えるのはこの俺の力しかない。奴が剣の切っ先をゆっくりとセルの喉元に移動させ「痛いぞ」と呟く。セルと俺の怯えた顔を眺めて楽しんでやがるのか?その時、燃え家々の一角から爆発が起こり、奴は一瞬その方向に目を向けた。反射的に俺はセルの手を引き、奴から距離をとると自分の後ろに庇った。奴は振り返ると、剣先を俺に向け再び呟いた。「紙切れを何枚並べようと剣の切れ味は衰えぬ。」端麗な顔立ちからは想像もできない低く威圧するような声は俺の四肢から見る見る力を奪い去っていく。このまま俺は妻さえ守れずに殺されてしまうのか?動かなければ!と思いながらも指さえもままならない。再び剣先がゆっくりと俺の顔に向けられ、俺は情けなく後ろに尻餅をついた。「死」の単語が脳裏に浮かんだ瞬間セルが俺の背にしがみ付いた。「あなた・・」消え入りそうな泣声が俺の耳に届いた時、俺は目の前の将軍に無性に腹が立たった。 私は秘剣「刹那の突き」を繰り出した。が、次の瞬間、両の眼を見開いた。自らの剣が貫く筈のヒューマンどもはその切っ先から逃れ、あまつさえ貫かれる筈の男が目前に立ち拳で私の顔を殴りつけたのだ。2・3歩後ろによろめきながら私はまだ自分の身に起こった事が信じられなかった。男は神速の動きで拳を突き入れる。男の顔には怒りの表情が浮かんでいるが、その顔が、自分を叱り飛ばす父親の顔と重なり、不思議な感情が芽生えるのを覚えた。数発の鉄拳を貰い、呆気なく気を失う寸前思った。嫌な痛みではないと。 幽閉後に解放軍のリーダーとなるヴェリスが語った中にこの夫婦の事が出てくるが、村を後にしたその後の消息は未だ掴めない無いままだ。 この年、ロイの国のデスガム王は不可侵のエフライの地に侵略の手を伸ばそうとしていた。
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