香り
そっとグラスのふちをなぞる長い指。どうしてか頭から離れない毒薬みたいな香水をつけたその指があたしの唇に触れた瞬間、あたしの時間は止まる。体はもう動かないし、風景さえ目に入らない。かすれて上ずった声だけが喉を震わせてる。体中から零れ落ちる水分とあなたの香りが混じり合って不思議な匂いが立ち込める。魔法の薬をつくる大釜に投げ込まれたみたい。
この瞬間が大好きなあたしは、この瞬間だけのためにあなたに会うの。強く烈しく求めながらまるで全てに興味があるみたいに振る舞う。どんなに欲しがっても手に入らないあなたのその瞬間だけをあたしにください。
その後あなたが誰に会おうと何にも言わないから。
アイシテルなんて言わないから。ソバニイテなんて願わないから。
その香りだけをあたしに残して。他には何にも望まないから。
この瞬間が大好きなあたしは、この瞬間だけのためにあなたに会うの。強く烈しく求めながらまるで全てに興味があるみたいに振る舞う。どんなに欲しがっても手に入らないあなたのその瞬間だけをあたしにください。
その後あなたが誰に会おうと何にも言わないから。
アイシテルなんて言わないから。ソバニイテなんて願わないから。
その香りだけをあたしに残して。他には何にも望まないから。
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