携帯小説!(PC版)

紅い月

[145]  コア  2007-03-17投稿
紅い月。
嫌いな煙草の煙が髪を掠める。
長い前髪の間から覗く細い目。
鈍い眼光は月光と絡まって道路の脇に枯れる一輪に注がれる。
細く長く白い息を吐く。
おんなは手に持った酒瓶を真下へ傾けた。
青く透き通った神酒が硬いアスファルトを跳ねては醜く潰れる。
おんなは虚無を見ている。
濃い濃い色の影。
闇に良く映える一筋の血筋が白目を裂くように走っている。
おんなは背を向けた。月光だけが空に花を舞わせている。

何で光が美しいかって言うと、それは闇があるからで。

間が好きだ。
何も言わず、ただ人がいる状態。
なにもなにもなにも
ただ何かを考えていてもそれを自分の中にだけ留めておく。
相手には理解できないだろうと諦めているわけではないよ。

何も覚えていないが、それだけは覚えている。
漣は私に笑った。
私は初めて人を悲しませる笑顔を知った。
それは私にとって唯一の宝になった。

「夢?」
そんな言葉初めて聞いた。
「そうだよ。夢」
私は漣の顔を見て、足下に視線を流した。
「いいひとになりたい」
「いいひと?」
「誰かを幸せにしてあげられるような」
漣は細かく頷きながらなるほどと言った。

なるほどといった。
私は前にのめりこんで倒れた。
地面の匂いがする。

残された。私は憎しみにも似た感情で睨んだ。あんたは私を置いていった。

ねえ
私格好よく見える?
ちゃんと人の死を理解したような顔で
本当は何もわかってないんだよ
本当は子供みたいに駄々こねてるんだよ

悲しい爆音だ。
どうしてこんな感情に襲われるのだろう。
叫びながら泣き喚く。
どうして馬鹿にしたくなる
くだらねぇと吐き捨てたくなる
事故防衛か

鈍い感情の中にも鋭い眼光。
何かを決意したようにも見える。
茶色い廃墟
自分に似ている

いのちあるもの。
限りを知ってなおそれを真っ当しようとするもの。
もがき、苦しみ、這いずり回って生にしがみつく。
なんて美しいんだろう。

燃えるような月だった。
赤黒い表面が太陽にちりちり炙られている。私は美しいと思った。私は河原に立っているらしい。
手には一枚写真を握っている。
私は月に捧げるように光に翳した。
ライターの灯を角に灯す。
憎しみでも悲しみでもない。
黒く爛れて散っていく宝を私は見つめた。
月の灰となって消える。

感想

感想はありません。

「 コア 」の携帯小説

ノンジャンルの新着携帯小説

サーバ維持用カンパお願いします。
WebMoney ぷちカンパ

Twitterで管理人をフォローする

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス