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独立性の喪失(1)

[5689]  管理人  2004-11-04投稿
「あの役者だよ。こういうサスペンスの配役を考えれば、あの人が犯人」
 彼女は僕といわゆる、サスペンス・ドラマを見ている。
 それはまだ分からないんじゃないのかな、と思ったけれど、そう言うことで発生する数々の問題がすぐに僕には予想できたので、言わなかった。リスク回避だ。
「なに、違うって言うの?」
「そんなこと、言ってないよ」
 僕は答える。そんなこと言ってない。
「言わなくても、わかるんだよ」
 いつからか僕の思考は彼女に伝わるようになってしまっていた。
 これが僕の彼女だ。

 彼女はほぼ僕と一緒にいる。
 僕は現在大学生なのだけど、大学にも彼女はついてくる。授業中は教科書(僕のだけど)なんかを静かに読んでいる。
 僕の周りには同級生がいるわけだけど、そういう時彼女は話し掛けてこない。僕が同級生なんかから離れたら話し出す。
「さっきの教授って、黒板に向かって講義してるね。こっち向けば良いのに」
「大学の先生なんて、そんなものだと思うよ。学生なんて気にしない人たち」
「まぁ、そんなものかもね」

 僕と彼女は僕の部屋に戻ってきた。今日の授業は終了した。
「ねぇ、お酒」
 彼女は冷蔵庫を指差して言った。
 僕が冷蔵庫にビールをひそかに保存しているのを彼女は知っていた。秘密にしていたのに。
「知っているよ」
 彼女は言った。
 何故だろう……。まぁ、いいや。いつか冷蔵庫を彼女が覗いたのだろう。僕はそういうことには執着しないことにしている。鵜呑みにできるのが、僕のいいところだと思っている。
「そうかな」
「え?」
「早く、ビール」
 僕は缶ビールを冷蔵庫から取り出し、グラスに注ぐ。グラスに注ぐ方がおいしいからだ。
 テーブルにグラスを置く。
 彼女は、グラスを手に取り、一気に流し込んだ。喉がヒリヒリしている。あぁ喉越しだね、とか言っている。
 グラスにビールを注いでやる。
「君は?」
「うん」
 僕は、直接缶から飲む。
「ねぇ、これからわたしのことどうするの?」
「え?」
 僕は驚いて言った。
 彼女は突然重い話をしてくる。新しい傾向だ。

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