雪の華30
「偶然居合わせ聖夜が必死に止めてくれた。でも私は───そんな聖夜にもナイフを振り上げてしまった。殺そうと……した」
身を振るわせながら桃実が過去の過ちを黒峯に話す。桃実にとって拭い切れない過ち。
「思いっきり振り上げて振り下ろした。
振り下ろしたナイフは聖夜にでは無く、自分の腕に突き刺さった。
そのまま意識を無くして──気付いたら、私の手を握っている聖夜が泣きながら、ゴメンゴメン…って何度も謝ってた」
黒峯は顔を歪め、黙って桃実の話しに耳を傾ける。
「───腕に……傷が残るって訊いた時……私はあなたを諦めた。
こんな醜くなった私を……あなたはもう愛してくれないと思ったから……でも寂しくて悲しくて……聖夜の優しさに甘えた。聖夜が好きだって言ってくれた、側にいてくれるって……私はそれに甘えた。聖夜を愛していなかったのに───」
桃実の目から止める事の出来ない涙がポタポタと零れ落ちる。
「私は聖夜をあなたの身代わりにしようとした。けど……無理だった。私はあなたを愛してるの。その気持ちはずっと変わらない。あなたが好き……黒峯」
「桃実……」
「黒峯あなたは私と同じ過ちをしようとしてる。
朱斐ちゃんを愛してるなら、別の人と結婚してはダメ! その人は朱斐ちゃんの代わりにはならないわ!」
桃実が泣きながら、黒峯の胸にしがみつき必死に説得する。
好きな人の変わりはいない。
桃実はそれを一番良く分かっていた。
「桃実」
黒峯が、涙を流す桃実を抱き締めた。その抱擁は桃実にとって優しく切なく暖かい───
「黒…峯…?」
「ゴメン。ゴメン桃実───何も知らなかった。お前がそんなに傷ついてたなんて───ゴメン」
「私は……私は…」
更にギュッと桃実を抱き締める黒峯。
「───こんな俺を好きでいてくれてありがとう。桃実」
「黒…峯…私は」
「───もう少し早く再び出会っていたら、こんな俺お前にあげれた。でももう俺には婚約者がいる。朱斐様は愛してる。───でももう引き返せない。俺は朱斐様以外の人と幸せになる」
「───ッ」
黒峯が桃実を放す。お互いの顔が見える距離。
「ありがとう。ありがとう桃実──」
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