東方医聞録 2
江戸という街には、いつも活気が満ちている。
初めて長崎についたときは、右も左もわからないまま、ひたすら放浪していたが、今では小さいながらも診療所も持てている。
それもこれもこの街の情に厚い人のおかげだ。
特に、お隣のお華さん―先ほど治療した猫と同じ名前だったりする―には、本当によくしてもらっている。命の恩人と言ってもいい。
「ただいま戻りました」
「あ、重さん。おかえりなさい」
店先で打ち水をするお華さんは、菫色の着物に紺の帯といった普段のいでたちだ。たすきで上げた袖からのぞく、白い腕が眩しい。つまりは
今日もかわいすぎるっ!
・・・もちろん顔には出さない。
「いやぁ、精が出ますねぇ」
「そう?春だっていうのに、旦那が水打てって言うの。また花風の病みたいで」
「ああ、今の時期は蕊粉が飛んでますからね。今度診に行きますよ」
「これがなきゃ春はもっといいのに」
ため息をつくと肩の黒髪がさらりと揺れる。どこからともなく舞ってくる桜とあいまって、一枚の絵のような光景だ。
「それにしても、重さんなんでも知ってるのね。ね、蕊粉ってお国だとなんていうの?」
「うーん。むこうではそんなに蕊粉も飛ばなかったんで、なんていうかは・・・。こっちだと花粉とも言いますよね」
他愛もない話をしながら店先で話していると、次第に陽も傾いてくる。
「そろそろ夕飯の支度しなきゃ。じゃあ重さん、いつも通りに来てね」
柄杓と桶を片付けて、ぱたぱたと店に入っていくその背中を見送ってから、診療所へと向かった。
診療所、とは言っても、お華さんの父君―つまりはこの薬屋の旦那の、店の物置としてつかっていたものを少し改造した小屋だ。店の裏手に回るとすぐに見えてきた。
「あー、疲れたぁ」
荷物を降ろして戸をあける。すると、
「・・・へ?」
そこには
半裸で眠る女の姿があった。
感想
- 4262: 続きを! [2011-01-16]
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