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航宙機動部隊第二章・18

[509]  まっかつ  2007-05-03投稿
クレオンは引き続き見解を述べた。
『…合衆国軍側が今取るべき最善の方策は、太子党の即時処断、出来れば連中をパレオス司法に引き渡す事ですが、果たして自分の息子・娘達を突き放すだけの決断が出来るか、恐らくは無理でしょう。次善の策はその者達を中央域に還し、司令部の総入れ替えと被害者への謝罪・賠償を行う事です』
エタンは頷いた。
左総長の分析は鋭く、かつ皇帝の考えと一致していた。
『一般将兵はこれにどう反応を示すと思います?』
『彼等の出自は庶民です。指揮系統には逆らえませんが、心情的には太子党の理不尽な振る舞いに反感を持ち、パレオス人に共感を抱くと予想します』
クレオンの説明と共に光像ボードが次々と画面を代え、その内容にエタンは少なからぬ衝撃を受けた。
今更ながらに中央域文明の恥部を見せ付けられ、腐敗せしその臭気を嗅がされ、余りの刺激に目眩を催しそうだ。
(こんな…こんな子供達まで…)
ただ異常性愛を満たす為だけに大勢の民間人を拐い、そのほとんどが一五才以下の少年・少女なのだ。
未確認ながら、ドラッグで「調教」して猛獣をけしかけさせたり、殺してその肉を食べたりして、倒錯した快楽を貪っていると言う知らせすらあるではないか!
矛盾しているとは感じながらも、皇帝はこの時、敵国の人間の境遇に胸が痛むのを禁じえなかった。
しかし、自分は彼等を討伐すべき身なのだと言い聞かせ、エタンは思考も発言も当面の戦略に専念すべきと思い直した。
クレオンにその葛藤に気付いた様子は無かった。
『征討軍の主力を占めるのは、中堅以上の職業軍人…と、申してよろしいのでしょうが、彼等は概ねどちらにも冷静、もしくは冷淡な姿勢を保っております』
彼等は契約と報償にさえ満足すれば、雇い主にこだわる事は無いのだから、これ自体は別に驚くには価しない。
左総長は光像ボードを閉じて、自分の腰際に戻した。
『報告は以上ですが、陛下はいかが思われます?御見解を頂ければ幸いです』
エタンは専門の軍略家ではない。
しかし、包括的な視点からすれば、より卓越した見識と資質を有していた。
『彼等が分裂するかどうかは分かりません。ですが、今確実に言えるのは、人の集団は(共通の敵)を与えれば、必ず結束します。私達がその役を引き受け、相手に大義を与えるのは上策ではないと思います』

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