―僕の事情― 9
「今朝の事はもういいから、悩み言えよ。一人で抱え込むから苛々するんだよ。たまには吐きださねぇと体に毒だ。」
「悩んでなんかない…」
僕は顔を背けたまま、海斗に嘘を言う。
しばらく沈黙が続く。
海斗がその沈黙をやぶった。
「…じゃあ俺、涼に何か避けられるような事したか?」
海斗の声が真剣だから…すごく痛い。
「海斗は……海斗は何も悪くないよ。僕が勝手に……」
いつまでたっても続きを言おうとしない僕を見て、海斗が先を促すように言う。
「勝手に…何?」
「…何でもない。ごめん。」
まさか昨日の女の子に嫉妬したなんて…言えないよ。
「涼、まじでどうしたんだよ……お前なんか変だぞ?」
「そんな事ないよ…海斗は心配しすぎなんだよ!」
僕はなんて言えばいいのかわからず、また嘘を言ってしまった。
「なんだよそれ。そんな事あるだろっ!!」
いきなり…そう、本当にいきなり海斗が僕の両肩を掴んで自分と向かい合わせにした。
「なっ、何!?」
僕はびっくりして咄嗟にそう言った。
海斗の顔をまともに見れず、下を向く。
「…………」
「…………」
その状態のまま、またしばらく沈黙が続く。
僕がこの沈黙に耐えられずに何か言おうと口を開いたときだった。
「もういい。」
海斗が僕の両肩から手を離した。
僕はその言葉の意味がいまいちわからず、海斗の顔を見上げる。
「もう、いい。お前がそう言うなら…もういちいち言わない。」
言い終わると海斗は立ち上がり、僕に背中を向けた。
「え…海斗…?」
「悪い。今日はもう帰って。」
……………
僕は最低だ。海斗は何も悪くないのに…。
僕のせいで海斗を怒らせてしまった。
どうしてこうなっちゃうのさ。
ただ好きなだけなのに。
でも僕にはその事を海斗に言えない、ある重要な事情があるんだ。
それは…僕が男だという事情…
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