MURASAME
亞リス?
私が亞リスに出会って…もうどれ程の時が流れたのだろう…私の亞リス…。
愛しい亞リス…。
男は人形を抱きしめると、まるで神聖なものに触れるかのようにそっと髪を撫でた。彼は人形に語りかけた。
「亞リス…。君が愛しい…とても…君がいない世界など…存在する価値がない…嗚呼、亞リス…」
人形は答えない。だが、男の頭にはしっかりと人形の声が響いていた。
暗闇のなか、男は亞リスを愛でた。甘美な快楽を貪るが如く…男には何も見えてはいない。
私ヲ想ッテクレルナラ、私ハココニイル…。
コギト・エルゴ・スム…
我想フ故ニ我アリ…
私ヲ想ッテ…誰ヨリモ強ク…。
蔵王丸はノートを閉じると、目の前の女性に顔を向けた。
まだ若い。だが、何か思い詰めているような、険しい表情をしていた。
「これは…?」
蔵王丸はノートを指差し、云った。
「私の主人が書いた物です」
彼女の名前は角野京子。小説家、角野美彦の奥方であると云う。
「…角野美彦の新作とは思えませんね。まさか…?」
「私も最初はそう思いました。しかし、私は見てしまいました。あの人形を愛でる主人の姿を…」
京子の顔がひきつった。まるで、光のない闇をみつめるような目をしていた。
「焔様…あなたは真柄太郎と云う方をご存知ですね」
「真柄…真柄太郎教授なら、私の師とも呼べる科学者ですが…それが?」
蔵王丸が問い返した。彼女は意を決したように呟いた。
「…この冒頭で行き倒れになった老人…その人物が真柄教授です…」
「なんだって!」
蔵王丸は思わず叫んだ。だが、彼女の瞳は嘘を言っていなかった。
「では、この亞リスを造ったのは…」
「そうです…亞リスの造物主は、真柄太郎、その人です」
蔵王丸は思いだした。教授の研究を。あまりの異端故、学会を追放された呪われし発明…。
「まさか…アリスレス式永久機関…完成していたのか?」
私が亞リスに出会って…もうどれ程の時が流れたのだろう…私の亞リス…。
愛しい亞リス…。
男は人形を抱きしめると、まるで神聖なものに触れるかのようにそっと髪を撫でた。彼は人形に語りかけた。
「亞リス…。君が愛しい…とても…君がいない世界など…存在する価値がない…嗚呼、亞リス…」
人形は答えない。だが、男の頭にはしっかりと人形の声が響いていた。
暗闇のなか、男は亞リスを愛でた。甘美な快楽を貪るが如く…男には何も見えてはいない。
私ヲ想ッテクレルナラ、私ハココニイル…。
コギト・エルゴ・スム…
我想フ故ニ我アリ…
私ヲ想ッテ…誰ヨリモ強ク…。
蔵王丸はノートを閉じると、目の前の女性に顔を向けた。
まだ若い。だが、何か思い詰めているような、険しい表情をしていた。
「これは…?」
蔵王丸はノートを指差し、云った。
「私の主人が書いた物です」
彼女の名前は角野京子。小説家、角野美彦の奥方であると云う。
「…角野美彦の新作とは思えませんね。まさか…?」
「私も最初はそう思いました。しかし、私は見てしまいました。あの人形を愛でる主人の姿を…」
京子の顔がひきつった。まるで、光のない闇をみつめるような目をしていた。
「焔様…あなたは真柄太郎と云う方をご存知ですね」
「真柄…真柄太郎教授なら、私の師とも呼べる科学者ですが…それが?」
蔵王丸が問い返した。彼女は意を決したように呟いた。
「…この冒頭で行き倒れになった老人…その人物が真柄教授です…」
「なんだって!」
蔵王丸は思わず叫んだ。だが、彼女の瞳は嘘を言っていなかった。
「では、この亞リスを造ったのは…」
「そうです…亞リスの造物主は、真柄太郎、その人です」
蔵王丸は思いだした。教授の研究を。あまりの異端故、学会を追放された呪われし発明…。
「まさか…アリスレス式永久機関…完成していたのか?」
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