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愛の幻

[346]  椿  2006-02-20投稿
時は明治時代初期、東京。
14歳のお玲は、上級武士の娘であったが、時代が変わって貴族が政治の中心となった為に、武士の身分が低くなり、落ちぶれてしまい、働きに出なければならなかった。
「今日からここでお世話になるんだ…」

お玲の目の前には、西洋の屋敷がそびえ立っている。貴族・廣瀬家だ。

門前をくぐると、質素な身なりの中年女性がいた。おそらく女中(家政婦)であろう。

「あのっ、今日からここでお世話になります、士族(武士)の娘、お玲にございます」
「女中になるの?」
「はい!掃除、洗濯縫い物何でもできます故」
「武士の身も低くなったわ…あっちの部屋で誓判書を書いて」
女の態度は何故かそっけなかった。だが、お玲はこんな事を考えていた。
『父上…武士の身分は落ちようとも、武家の誇りだけは捨てませぬ…』

誓判書を書いたら、早速仕事は始まった。廊下の雑巾掛け、洗濯…。やはりお玲は入ったばかりなので、他の女中より仕事が上手くいかく、怒られる。
「これっ!もっと早うふきなされ!」
「は、はい!」

そんな様子をじっと見ている人がいた。
…廣瀬家の15歳の一人息子、清二だった。

… 続

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