赤雪
寒い風が、大坂の町を駆け抜けた。
今年の春は例年より寒かった。夏も殊更に暑くなく、秋は春と同じで、寒かった。
そして、今は師走。秋から寒かったがさらに寒さがまし、風邪をひいている町人がわんさかいる。 秋之上重時も町人と一緒に風邪をひいているが、岡っ引きは周りを見て歩く仕事を仰せつかっているから、重時が見廻りで町をぶらぶら歩いていると、蕎麦屋の親父が重時に話し掛けてきた。
「おっ、重時はん。暖かい蕎麦いりまへんか?体暖かなりまっせ?安うにしときまっさかい。どないでっか?」
「おー、親父か。ありがたいんやけど、俺、今見廻りちゅうやねん。あとでまた来るから、そん時に、蕎麦食わしてくれ」そういって、重時は見廻りを続けた。真面目な重時は、見廻り中にほかのことをしないのだ。
半刻位すぎたころ、見廻りを終えた重時は蕎麦屋の暖簾を潜った。すると、客が三人ほどいた。一人は、重時と同い年ぐらいの男。他の二人は、一回りは上だと思われる。どうやら、喧嘩しているらしい。重時は親父に聞く前に止めに入った。「おい、お前らなんで喧嘩しとんねん。はよやめんと、しょっぴくど!親父に迷惑やろがい」
重時が掠れ声で一喝すると、同い年位の男が話し出した。続
今年の春は例年より寒かった。夏も殊更に暑くなく、秋は春と同じで、寒かった。
そして、今は師走。秋から寒かったがさらに寒さがまし、風邪をひいている町人がわんさかいる。 秋之上重時も町人と一緒に風邪をひいているが、岡っ引きは周りを見て歩く仕事を仰せつかっているから、重時が見廻りで町をぶらぶら歩いていると、蕎麦屋の親父が重時に話し掛けてきた。
「おっ、重時はん。暖かい蕎麦いりまへんか?体暖かなりまっせ?安うにしときまっさかい。どないでっか?」
「おー、親父か。ありがたいんやけど、俺、今見廻りちゅうやねん。あとでまた来るから、そん時に、蕎麦食わしてくれ」そういって、重時は見廻りを続けた。真面目な重時は、見廻り中にほかのことをしないのだ。
半刻位すぎたころ、見廻りを終えた重時は蕎麦屋の暖簾を潜った。すると、客が三人ほどいた。一人は、重時と同い年ぐらいの男。他の二人は、一回りは上だと思われる。どうやら、喧嘩しているらしい。重時は親父に聞く前に止めに入った。「おい、お前らなんで喧嘩しとんねん。はよやめんと、しょっぴくど!親父に迷惑やろがい」
重時が掠れ声で一喝すると、同い年位の男が話し出した。続
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