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雨の人?

[357]  桐生徳人  2007-05-26投稿
雨が降ると、いつもあの人は立っていた。
線路に架かる横断歩道の上に。

ー5月下旬ー

放課後の教室。

「…。」
高梁孝一 (たかはしこういち)通称コウ。中3。

「コウ。今日夕方から塾だぞ。どうした?」
野島雪人 (のじまゆきひと)通称ユキ。幼なじみ。

「…コレ。」
「ん…進路希望調査票?…コレ先週配られたやつじゃん。出してねーの?」
「…白紙で出した。そしたら先生がちゃんと書けって。」
「当たり前だ。てか、お前の頭なら公立トップ行けんだろ。何迷ってんだよ。……もしかしてお前、美樹ちゃんの事があるからか…」

美樹は6歳の妹だ。生まれつき心臓が弱く、入退院を繰り返している。現在入院中だが来週退院予定だ。

「事情を知らない先生と違って、事情を何でも知ってる奴ってのも嫌なもんだな。」

ウチは母さんが美樹と同じで心臓が悪く、美樹が2歳の時に死んでしまった。それから父さんが男手ひとつで、俺達を育ててくれた。といっても、美樹の入院費用と俺の塾の費用もあるから、ずっと働き詰めで、家事や美樹の世話などは全部俺がやっていた。

「まぁこの田舎じゃ、私立はバスで1時間。公立は近くてトップ校の明星だけど、バス、電車、徒歩で2時間半だもんな。」
「美樹は来年小学生だから、まだ手が掛かる。明星じゃ、世話出来ないよ。定期だってバカになんないし。」
「確かに。…ちょっと軽はずみな事言うようだけど、思い切って引っ越せないのか。お前の父さんの仕事場だって市街なんだろ?あっちだったらもっと学校だってあるだろ。」
「同じ事を父さんに言った…そしたら父さんが言うには、ここに住んでるのは元々、母さんの療養目的なんだって。ここに住んでなきゃ、母さんの命はもっと短かったって。…美樹の事を考えるとここを離れる訳にはいかないんだ。」

けたたましい蝉の音の中で重い沈黙が少し続いた。

「そうか。本当に軽率だった…ごめん。」
「いいよ。気にすんな。…今日はバックレてもう帰るか。」
「じゃあ一緒に塾行こうぜ!!」

ユキは驚く程切り変わりが早い。だからこそ、今までずっとつるんできたのかもしれない。

「でも塾の前に病院寄ってもいいか?」
「美樹ちゃんか?いいぜ。俺も行く。」
「あんがと。美樹も喜ぶよ。」

進路希望調査票をポケットに丸め込んで教室を後にした。

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