恋人未満10
「ずっと奈緒が好きだよ。」
本人を前にして言えなかった言葉を哲也は言った。
「さっきのは嘘だよ。奈緒は一言もそんな事言ってない。」
健吾は、坦々と話を続ける。
「俺ら、うまくいってるし、卒業したら結婚する。」
「俺は奈緒が幸せならそれでいい。」
意外な哲也の言葉に、健吾は戸惑った。
「は??何だよそれ。」
「俺は、奈緒に気持ちを伝える気ないし、2人の仲を壊す気もない。
ただ、奈緒には幸せでいて欲しい。」
「そ。分かった。安心したよ。」
哲也の奈緒に対する気持ちの大きさを、健吾は認識した。
同時に、自分の情けなさも痛感していた。
「あれ?健くん?」
奈緒のバイトが終わるのを健吾は裏口で待っていた。
「奈緒、話があるんだ。」
「ん??」
「今までありがとう。」
「…えっ…?」
「哲也、いい奴だもんな。」
「…健く…ん?」
「無理させてごめんな。」
「なんで?私無理なんて…」
「本当は、放したくない。他の奴の事を考えてる奈緒でも側にいて欲しい。」
「でも、それじゃあ、お互い辛いだけだから。…ね。奈緒。」
「……ごめ…なさい…」
奈緒の瞳から涙が溢れた。
「謝る事ないよ。ずっと気がついてたのに、無理させたのは俺なんだから。」
健吾は奈緒の頭を撫でる。
「ただし、ちゃんと、哲也に気持ちを伝える事。」
うつむいた奈緒の顔を覗き込み、ほほ笑みかける。
「…うん。」
伝えなくちゃ。
ずっと、言えなかった言葉。
壊れる事が恐かった。
離れてしまうことが嫌だった。
でも、今は、ゼロからだから…
ただ、聴いてくれるだけでもいい。
嫌われてもいい。
メールを打つ。
《哲、会いたい。》
返事はこなかった。
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