幸福道
その日が来ることはわかっていた。社内のゴルフコンペの帰り道、彼にメールを打つ。「一時間ぐらいで帰るから部屋で待ってて」
彼との関係はちょうど1年になろうとしている。彼が妻帯者であることを除けば、彼と私の関係は理想的だった。彼と過ごす時間には言葉で体で愛されている実感があった。
家に着くと先に来ている筈の彼がいない。彼からの連絡もない。彼が来るまで、一眠りしようとうとうとした時、玄関の鍵が開いた。私はいつものように迎えに出て、抱きついた。いつもなら私を抱きしめる筈の彼が私を突き放した。「話しようか」そう言うと彼は私を振り払うようにリビングに進み、テーブルに写真を広げた。そこには私のマンションから朝焼けの中を出てくる彼と私の姿があった。「この日はね、後なんかつけられないんだよ」彼の一言に思わず「どうして?」と聞いてしまった。「どうして?やっぱりオマエなんだな。世の中にはな、別れさせ屋ってのがいるんだよ!偶然を装ってウチの嫁さんの携帯聞き出して、ストーカーさせて、挙げ句に写真をおくりつけたわけか!オマエだろ!言えよ!」彼の言う通りだった。私はカネで人を雇い、男を奥さんに近づけた。一瞬、言い逃れようかと思ったが、全てがムダであると悟った。彼は私を問い詰めに来たのではない。私の仕業だと確信して、別れを切り出そうとしている。「オマエこんなことして、俺が手に入ると思ったの?そんなことして手に入れても幸せになんかならないよ?これで俺が嫁さんと別れても俺は絶対にオマエには戻らない」私はわかっていた。私たちの関係がバレれば、私は捨てられると。でも、いつ彼の気まぐれで捨てられるか分からない私に対して、なんの努力もせず、彼との時間を過ごせる奥さんが許せなかった。どうせ捨てられるなら、全てを壊してやろうと思って、人を雇ったのだ。
彼の話を聞きながら、私は何故か他人事のように呟いた。「私はアナタにとってどんな存在だったのかな?」「忘れたよ。言わない。それを知らずに死んで行くのがオマエの罪と罰だ」
出ていく彼を引き留めようともしなかった。「あんまり働き過ぎるなよ。じゃあ。」
最後に見せた彼の中途半端な優しさも、私の前を通りすぎていく。今、一つの恋が終わった。頭の中では「間違った恋をしたけど、間違いではなかった」と歌の歌詞が巡っていた。不思議と涙は出なかった。
彼との関係はちょうど1年になろうとしている。彼が妻帯者であることを除けば、彼と私の関係は理想的だった。彼と過ごす時間には言葉で体で愛されている実感があった。
家に着くと先に来ている筈の彼がいない。彼からの連絡もない。彼が来るまで、一眠りしようとうとうとした時、玄関の鍵が開いた。私はいつものように迎えに出て、抱きついた。いつもなら私を抱きしめる筈の彼が私を突き放した。「話しようか」そう言うと彼は私を振り払うようにリビングに進み、テーブルに写真を広げた。そこには私のマンションから朝焼けの中を出てくる彼と私の姿があった。「この日はね、後なんかつけられないんだよ」彼の一言に思わず「どうして?」と聞いてしまった。「どうして?やっぱりオマエなんだな。世の中にはな、別れさせ屋ってのがいるんだよ!偶然を装ってウチの嫁さんの携帯聞き出して、ストーカーさせて、挙げ句に写真をおくりつけたわけか!オマエだろ!言えよ!」彼の言う通りだった。私はカネで人を雇い、男を奥さんに近づけた。一瞬、言い逃れようかと思ったが、全てがムダであると悟った。彼は私を問い詰めに来たのではない。私の仕業だと確信して、別れを切り出そうとしている。「オマエこんなことして、俺が手に入ると思ったの?そんなことして手に入れても幸せになんかならないよ?これで俺が嫁さんと別れても俺は絶対にオマエには戻らない」私はわかっていた。私たちの関係がバレれば、私は捨てられると。でも、いつ彼の気まぐれで捨てられるか分からない私に対して、なんの努力もせず、彼との時間を過ごせる奥さんが許せなかった。どうせ捨てられるなら、全てを壊してやろうと思って、人を雇ったのだ。
彼の話を聞きながら、私は何故か他人事のように呟いた。「私はアナタにとってどんな存在だったのかな?」「忘れたよ。言わない。それを知らずに死んで行くのがオマエの罪と罰だ」
出ていく彼を引き留めようともしなかった。「あんまり働き過ぎるなよ。じゃあ。」
最後に見せた彼の中途半端な優しさも、私の前を通りすぎていく。今、一つの恋が終わった。頭の中では「間違った恋をしたけど、間違いではなかった」と歌の歌詞が巡っていた。不思議と涙は出なかった。
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