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MURASAME

[469]  あいじ  2007-06-09投稿
鬼門?

幸司の手が震え、構えた羅喉を取り落としそうになった。幸司は自分の目の前の光景が信じられなかった。
「幸司…」
可王は静かに呟くと小鉄の刀身を鬼門から引き抜いた。
「師匠…教えて下さい…一体何が起こってるんですか?」
自分の足下に倒れこんで今にも息絶えてしまいそうな蔵王丸の姿が幸司の視界に入った。
そして、すぐ前には自分を育てた懐かしい顔がある。何年も前に離れたはずの自分の師…。
目に写る何もかもが夢幻の夢のように虚ろであった。

幸司がこの世で初めて見たモノは、柔らかく、儚い村雨と黒装束の一匹の蜻蛉だった。


今から十七年前。
一人の赤子が生後間もなく捨てられた。親も素性もわからない。名前を表すような物を何一つ持っていなかった。
普通ならばそのまま朽ち果てていたであろうその赤子は黒い蜻蛉との出逢いにより生命を紡ぐこととなる。


「幸司…か。元気そうだな、学校の方はどうだ?しっかり勉強してるんだろうな?」
可王は幸司に微笑む。さっきとは比べられないほど穏やか表情だった。
「師匠…本当のこと言って下さい。何をしているんですか?蔵王丸さんを…斬ったのは…師匠…なんですか?」
幸司の心に迷いが生じた。自分に名前をくれた親とも言える人物がそんなことをする筈がないと。
しばらく沈黙が続いた。
「そう…俺が斬った…」
可王の唇が薄く開き沈黙を破った。幸司は声を絞りだそうとしたが喉が詰まったように言葉を発することが出来ない。
「俺はもう…お前の知っている可王京介ではない…」
一陣の風が吹いた。可王が小鉄を一閃させると幸司の肩から血が吹き出た。
「だから…お前が俺の邪魔をするのなら…お前を斬ることに躊躇いはない」
可王が小鉄を構える。辺りに凄まじい殺気が立ち込め木々がざわめいた。
「逃げ…ろ。君のかなう相手では…」
蔵王丸の言葉を無視し幸司は羅喉を高く掲げ、構えた。

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