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無音の愛

[297]  林檎  2007-06-11投稿
テープレコーダーが回る。
「私は今回このインタビューを担当します藤井匠です。よろしく」
「椰子さあなです」

私は聞き取れるかどうかくらいの、小さな声で囁いた。匠さんはニッコリ笑って、質問を始めた。症状はいつからか、今の気分、どんな感じなのか、一言で例えると……17歳の学校に行った事のない私に分かる様に、丁寧に話してくれた。でもほとんど覚えていない。このインタビューがあった次の日、私はあまりにも長い時間人の声を聞きすぎて、熱を出してしまったからだ。
でも覚えている事もある。匠さんの声が私にとって子守り歌のようで心地良かったのと、「一言で例えると?」という質問に「無音が恋しくなる」と答えた事。熱を出した私はそのまま5日間浅い眠りと深い眠りを繰り返していた。食事もろくに取らなかった。お腹が空いていないのもあったし、何より、スプーンと食器が擦れる音が嫌だった。
眠っていた私の頭は、ずっと「藤井匠」という名前を壊れたテープの様に繰り返していた。
でももう会えないのよねぇ。
風に揺られて、葉っぱが落ちる。
その日私は看護婦に「藤井匠」という字を教えてもらった。スケッチブックに書いた名前を指でなぞった。
とても愛おしい名前。

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