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MURASAME

[547]  あいじ  2007-06-16投稿
鬼門21

その影は月光の下に姿を現した。編傘を深く被っている為、顔や表情がわからない。
「何者…?」
可王が残った手で刀を突きつけた。その僧侶は編傘を剥ぎ取り、月光に照らされ姿を露わにした。
「儂は薬師院大光明…久しぶりじゃな京介」
まるで女性のように高い声だった。背中で無造作に結ばれた金色の髪が月光に反射し美しく輝く。
まだ若い。しかも女性のようだった。
「俺の知っている大光明は…男だったが…何故大光明を名乗る…」
「なに…ちと手違いでな。今はこの体が儂じゃ」
大光明を名乗る女性はおどけるように笑った。可王は片手で正宗を構えると彼女に向かって斬りかかろうとした。
だが、鬼の剛腕がそれを阻み、その衝撃で大地が揺れた。
「仕方ないのぉ…ちと黙っておれ」
大光明は両手で印を結ぶと鬼に向かって何やら唱えた。鬼の周りに光の輪が現れ、自由を奪った。
「さて、京介よ…儂が直々に引導を渡してくれよう」
大光明が持っていた釈杖を抜き、白刃を輝かせる。可王も再び正宗を構えた。
「舞え…正宗!」
「関孫六(せきのまごろく)よ。その力を示せ」
関孫六と正宗が激突し眩いまでの輝きが広がった。大光明の太刀筋は幾重に広がり可王の体に襲いかかった。可王は片手でその全てを流すが明らかに力負けしていた。やがて関孫六の刃が可王の体を深々と斬り裂いた。
「ぐうぅ…」
可王の体から血が吹き出る。腹からは臓物が垂れていた。
「それでも死なぬところをみると、お主もしや…」
「ふふ…確かにそれは妖刀、関孫六。では貴様は本当に薬師院大光明か…」
「だからそう言うておるに…」
大光明が呆れたような声をだす。
「ならば俺がここにいる理由はない」
可王は落ちていた片手を拾うと大光明と幸司を見据えた。
「さらばだ」
可王はまるで闇に吸い込まれるように消えていった。
「騒がしい奴じゃな…さて」
大光明が光輪に縛られた鬼を見上げた。「ここからが本当の鬼退治じゃ!」

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